「もっと自分の良いところを見つけよう」 「失敗しても、成長のチャンスだとポジティブに捉えよう」
そんな風に書かれた本やSNSの投稿を見て、「そう思えない私は、やっぱりダメな人間なんだ」とさらに落ち込んでしまった経験はありませんか?
世の中は「自己肯定感が高いこと=絶対的な正義」であり、低いことは直すべき欠点であるかのように語られます。 そのため、真面目な人ほど「自己肯定感を上げなきゃ」と必死にポジティブな言葉を唱え、無理やり自分を好きになろうと努力してしまいます。
しかし、心が弱っている時にその努力をすることは、骨折している足でフルマラソンを走るのと同じくらい危険な行為です。 本記事では、あなたを苦しめる「ポジティブ思考の罠」を紐解き、自分を好きにならなくてもラクに生きられる「自己受容」という方法についてお伝えします。
第1章:それは「有毒なポジティブ(トキシック・ポジティビティ)」
なぜ、前向きになろうと頑張るほど苦しくなるのでしょうか。 心理学には「トキシック・ポジティビティ(Toxic Positivity:有毒なポジティブ)」という言葉があります。 これは、どんなに辛い状況でも「常にポジティブでいなければならない」と思い込み、自分や他人のネガティブな感情を強制的に押し殺してしまう状態を指します。
「本当はすごく悲しいのに、笑顔を作らなきゃ」 「本当は腹が立っているのに、感謝しなきゃ」
このように、自分の本当の感情(本音)と、頭で作り出したポジティブな言葉(建前)に大きなズレが生じると、脳は強烈なストレス(認知的協和)を感じます。 自分に嘘をつき続けることは、莫大なエネルギーを消費します。あなたがポジティブになろうとして疲弊するのは、心が「そんな嘘はやめてくれ」と悲鳴を上げている証拠なのです。
第2章:条件付きの「自己肯定」はすぐ崩れる
そもそも、巷で言われている「自己肯定感」の多くは、実は非常に脆いものです。 「仕事で成果を出せたから、私が好き」 「人から褒められたから、私には価値がある」 これらはすべて、何かができたという条件付きの評価(自信)に過ぎません。
条件付きの肯定は、仕事でミスをしたり、誰かに批判されたりした瞬間に、ガラガラと音を立てて崩れ去ります。 そして崩れるたびに、「またネガティブになってしまった。やっぱり私はダメだ」という、さらに深い自己嫌悪のループに陥ってしまうのです。
高い自己肯定感を維持するために、常に何かに挑戦し、成功し、前を向き続けなければならない。そんな息の詰まるレースから、そろそろ降りてみませんか。
第3章:自分を好きにならなくていい「自己受容」
自己肯定感(自分を「良い」と評価すること)を目指す代わりに、今日から「自己受容(自分を評価せずに、ただ受け入れること)」にシフトチェンジしましょう。
自己受容とは、「今の自分を好きになること」ではありません。 「あーあ、今の私、めっちゃネガティブだな」「仕事できないし、性格も暗いな。まあ、それが今の私なんだけどね」と、良い・悪いのジャッジを下さず、ただ事実として「諦める(明らかに見る)」ことです。
自己受容の感覚を掴むための小さな練習をご紹介します。
1. 感情の前に「~と私は感じている」とつける
「私って本当にダメだ」と思いそうになったら、「『私って本当にダメだ』と、今私は感じている」と言い直してみてください。 ダメな人間だと決定づけるのではなく、「今、そういう一時的な感情が湧いているだけ」と事実を切り離すことができます。
2. 「だから何?」と問い返す
自分のコンプレックスやネガティブな部分が気になった時、心の中で「だから何?」とツッコミを入れてみてください。 「自己肯定感が低い。だから何?(別に死ぬわけじゃないし)」 「人に気を使いすぎる。だから何?(そのおかげで揉め事を避けられているし)」 欠点を無理に長所に変換する必要はありません。「欠点はあるけど、まあ別にそれでいいか」と、開き直る練習です。
3. ダメな日の自分に「許可」を出す
ポジティブになれない日は、「今日は1日、思い切りネガティブでいよう」と決めてください。 ベッドの中で「あいつムカつく」「もう全部嫌だ」と毒を吐いても構いません。ネガティブな感情は、しっかりと直視して味わい尽くすことで、自然と消化されて消えていきます。
結論:ネガティブなまま、生きていけばいい
人間は本来、ネガティブな生き物です。 危険を察知し、最悪の事態を想定する「ネガティブさ」があったからこそ、私たちの祖先は過酷な自然界を生き延びてこられました。 あなたがネガティブなのは、生存本能が正常に働いている証拠であり、直すべき欠陥ではありません。
「自分を愛さなきゃ」 「輝く人生にしなきゃ」 そんな重たい看板は、もう下ろしてしまいましょう。
自分を嫌いなままでも、自己肯定感が地の底を這っていても、明日の朝ごはんは美味しく食べられます。 「まあ、今の自分はこんなもんだよね」と肩をすくめて、まずは今日一日、ダメな自分のままでゆっくりと休んでください。

