「何度同じことを言わせるんだ」 「あいつは言われたことしかできない」

部下の成長の遅さにイライラし、懇切丁寧に指導(ティーチング)しているのに、一向に成果が出ない。 そんな悩みを抱えるマネージャーは少なくありません。

しかし、心理学の知見から言えば、その「手取り足取りの指導」こそが、部下の成長を止めている主犯である可能性が高いです。

教育心理学者ロバート・ローゼンタールの実験によれば、人は他者から期待されると、その期待通りの成果を出そうと無意識に行動を変えます。これを「ピグマリオン効果」と呼びます。 逆に、「こいつはダメだ」と思って接すると、本当にダメな人間になっていきます。これを「ゴーレム効果」と呼びます。

人材育成の本質は、スキルを教え込むことではありません。 部下自身が気づいていない「可能性」を、上司が先回りして信じ抜くこと(期待の投資)です。 本記事では、ただの精神論ではない、科学的な「期待のマネジメント」技術を解説します。


第1章:なぜ「細かく指導する」と部下はダメになるのか?

「ミスをしないように、細かく指示を出そう」 この親切心は、心理学的には「呪い」として機能します。

負の連鎖「ゴーレム効果」

上司が部下を「能力が低い」とみなすと、無意識に以下のような非言語シグナル(マイクロ・メッセージ)を送ってしまいます。

  • 監視の目が厳しくなる。
  • 仕事の裁量権を与えない。
  • 失敗した時に「やっぱりな」という顔をする。

これを受け取った部下の脳内では、「自分は期待されていない(=能力がない)」という自己認識(セルフ・イメージ)が形成されます。 結果、自信を喪失し、パフォーマンスが低下し、さらにミスが増える。 上司はそれを見て「ほら、やっぱり無能だ」と確信する。

これが「ゴーレム効果の無限ループ」です。 部下が育たない原因の半分は、上司であるあなたが無意識にかけた「お前はできない奴だ」という呪いにあるのです。


第2章:凡人をエースに変える「ピグマリオン効果」

このループを逆回転させるのが「ピグマリオン効果」です。 ローゼンタールが行った有名な実験があります。

ある小学校で、知能テストの結果とは無関係に、無作為に選んだ生徒を「この子は将来伸びる天才です」と教師に伝えました。 すると1年後、その生徒たちの成績は、他の生徒よりも著しく向上していました。

「嘘」でもいいから期待する

教師が「この子は天才だ」と信じ込んだことで、眼差し、声がけ、フィードバックの質が無意識に変化し、生徒の自己効力感を押し上げたのです。

ビジネスでも同じです。 今の部下の実力がどうであれ、まずは上司が「こいつは化ける」と(根拠なく)信じ込むこと。 育成のスタートラインは、スキル伝達ではなく、この「マインドセットのセットアップ」にあります。


第3章:期待を伝える「3つの承認シグナル」

では、具体的にどう振る舞えば「期待」は伝わるのでしょうか。 「期待してるぞ」と言葉で言うだけでは不十分です。行動で示します。

1. 難易度の高い課題を与える(ストレッチ・アサインメント)

「君ならできる」という最大の証明は、「失敗するかもしれないギリギリの仕事」を任せることです。 過保護に簡単な仕事ばかり与えるのは、「君には無理だ」というメッセージです。 「少し荷が重いと思うが、君なら超えられるはずだ」と言って渡してください。

2. プロセスではなく「結果」だけを問う

やり方を細かく指示するのは、「君のやり方は信用できない」というサインです。 ゴール(目標)だけを握り、プロセス(手段)は一任してください。Self-Determination Theory autonomy competence relatednessの画像

これは自己決定理論における「自律性(Autonomy)」を刺激し、内発的動機付けを爆発させます。

3. 失敗を「学習」と再定義する

部下が失敗した時、ため息をついてはいけません。 「ナイスチャレンジだ。この失敗から何が得られた?」と聞いてください。 失敗を咎めず、挑戦したこと自体を評価することで、心理的安全性が担保され、部下は恐れずに次の打席に立つことができます。


第4章:「1on1」を説教部屋にしない

ピグマリオン効果を最大化する場が「1on1ミーティング」です。 ここでダメ出し(Gapアプローチ)ばかりしていませんか? 育成に必要なのは、「ポジティブ・アプローチ」です。

未来の姿(To Be)から逆算する

「今の君はここがダメだ」ではなく、 「3年後、君にはこういうリーダーになってほしい。そのために、今月は何に挑戦しようか?」 と語りかけてください。

上司が描いている「部下の未来図」を共有すること。 「あなたのキャリアに興味がある」というメッセージこそが、部下の承認欲求を満たし、エンゲージメントを高めます。


結論:人は「扱われた通り」の人間になる

ドイツの詩人ゲーテはこう言いました。

「人に、そのあるがままを接すれば、その人を堕落させる。 しかし、あるべき姿(理想)を接すれば、そのあるべき姿へと成長させる

人材育成とは、今の部下(現状)を見ることではありません。 その部下がなりうる「最高の未来」を幻視し、そこに話しかけることです。

もし「部下が育たない」と嘆いているなら、一度鏡を見てください。 あなたは部下を「使えない奴」という目で見ていませんか? その目が、彼らの可能性を殺しています。

今日から、「こいつは未来のエースだ」というレンズ(色眼鏡)をかけて接してください。 半年後、驚くような変化が起きているはずです。 人は誰しも、自分を信じてくれる人のために、期待以上の力を発揮したいと願う生き物だからです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です