はじめに
「毎回、同じ会社説明スライドを読み上げている気がする」 「参加者の反応が薄く、選考への歩留まりも下がってきた」
もし採用担当者のあなたが、自社のイベントに「マンネリ(退屈さ)」を感じているなら、それは参加している候補者にとっても同じ、あるいはそれ以上に退屈な時間になっているはずです。
情報過多の現代において、Webサイトを見れば分かる情報をただ読み上げるだけの「会社説明会」は、その役割を終えつつあります。
本記事では、採用イベントを「情報伝達の場」から「候補者体験(CX:Candidate Experience)の場」へとアップグレードし、優秀な人材が「この会社は他とは違う」と前のめりになる3つの戦略的フレームワークを解説します。
なぜ、あなたの採用イベントは「退屈」なのか?
マンネリ化の根本原因は、企画のネタ不足ではありません。「情報の非対称性」が解消されたことに気づいていない点にあります。
かつては、企業の詳しい情報は説明会に行かなければ得られませんでした。しかし今は、OpenWorkやSNSで「リアルな情報」が手に入ります。それなのに、企業側が「綺麗なパンフレット情報の読み上げ」に終始してしまうと、候補者はこう感じます。
「ネットに書いてあることと同じだな(行く意味なかったな)」
この失望感が、マンネリの正体です。 今求められているのは、「ネットでは得られない体験(Experience)」と「手触り感のある一次情報(Reality)」だけです。
「説明」から「体験」へ。イベントを変革する3つのシフト
では、具体的にどう変えればよいのでしょうか。ターゲットを「観客」から「参加者」に変える3つのシフトを提案します。
Shift 1: 「プレゼン」から「ワークサンプル」へ
優秀な層ほど、「自分がこの会社で活躍できるか」を試したがっています。 一方的な講演を聞かせるのではなく、「実際の業務の一部を切り出した課題(Work Sample)」を解かせてみましょう。
- Before: 営業部長が「当社の営業スタイル」について30分語る。
- After: 実際に起きた顧客トラブルの事例を渡し、「あなたならどうメールを返すか?」をグループで議論させ、部長がフィードバックする。
これにより、候補者は「仕事のリアル」を体感でき、企業側は「候補者の実力」を見抜くことができます。まさにWin-Winの構造です。
Shift 2: 「成功談」から「ハード・シングス」へ
「風通しが良いです」「成長できます」といった美辞麗句は、もはや誰も信じていません。 信頼を獲得するための最強のコンテンツは、「RJP(Realistic Job Preview:現実的な仕事の予告)」です。つまり、あえてネガティブな側面や、困難な現実を語ることです。
企画例:
- 「失敗事例共有会」: 過去の大炎上プロジェクトと、それをどう乗り越えたかをエース社員が語る。
- 「ぶっちゃけ座談会」: 「入社して一番ギャップを感じたことは?」という問いに、NGなしで若手が答える。
「大変さ」を隠さず提示することで、「それでも挑戦したい」という覚悟のある層だけをスクリーニング(選抜)する効果も生まれます。
Shift 3: 「人事主導」から「現場主導(エンジニア to エンジニア)」へ
専門職採用において、人事担当者が技術の話をするのは限界があります。 「イベントは人事がやるもの」という固定観念を捨て、「現場社員が、未来の同僚をスカウトしに行く場」と再定義してください。
成功パターン:
- LT(ライトニングトーク)大会: エンジニアが最近の技術的挑戦を5分でプレゼンし合う。
- コードレビュー会: 候補者のコードを、シニアエンジニアがその場でレビューする。
人事は裏方に徹し、現場社員を「主役」にすることで、情報の解像度と熱量は劇的に上がります。
結論:イベントのゴールは「選ぶこと」ではなく「選ばれること」
マンネリ化したイベントを脱却するために、奇抜なゲームや豪華なゲストは必要ありません。 必要なのは、「候補者を一人前のビジネスパーソンとして扱い、本音で対峙する姿勢」です。
「うちはこんなに大変な課題がある。でも、だからこそ面白い。君ならどう解く?」
そう問いかけた時、目の前の学生や候補者の目が輝き出したなら、そのイベントは大成功です。 「説明する」のをやめて、「体験」を提供しましょう。それが採用ブランディングの第一歩です。

