はじめに
「部下のミスが減らない」 「苦手を克服させようと指導しているが、成果が出ない」
もしあなたが今、部下の「弱点」と格闘しているなら、それはマネージャーとしての努力の方向が間違っているかもしれません。
ビジネスの世界では長らく、凸凹のない「平均的な優等生」を育てることが管理職の仕事だとされてきました。しかし、イノベーションが求められる現代において、平均点は価値を持ちません。
必要なのは、メンバーの欠点を直す「修正屋(Manager)」ではなく、メンバーの才能を見出し、それが爆発する舞台を用意する「プロデューサー(Producer)」への転身です。 本記事では、チームの才能を最大化するための思考のシフトチェンジについて解説します。
「修正する」マネージャー vs 「演出する」プロデューサー
従来のマネージャーと、プロデューサー型リーダーの決定的な違いは、「人材に対するアプローチ(前提)」にあります。
1. マネージャー(修正モデル)
- 視点: 「この部下には何が足りないか(Gap)」を見る。
- 行動: 苦手を克服させ、マニュアル通りの業務ができるように教育する。
- 結果: ミスは減るが、突き抜けた成果も出ない「平均的なチーム」ができる。
2. プロデューサー(活用モデル)
- 視点: 「この部下は何がズバ抜けているか(Strength)」を見る。
- 行動: 弱点には目をつぶり(あるいは他で補い)、強みが生きるタスクだけを与える。
- 結果: 欠点だらけだが、特定領域で圧倒的な成果を出す「スターチーム」ができる。
音楽プロデューサーは、歌が下手なアイドルにオペラを教えたりしません。「その歌声が個性として輝く曲」を作ります。ビジネスも同じです。「人を変える」のではなく、「舞台(環境)を変える」のがプロデューサーの仕事です。
チームを劇的に変える3つのプロデュース技術
では、明日からどう動けばいいのか。具体的な3つのステップを提示します。
Step 1: 「六角形」を諦め、「スパイク(棘)」を探す
人事評価シートによくある「レーダーチャート(六角形)」を埋めようとするのをやめてください。 注目すべきは、バランスを崩してでも突出している「スパイク(棘)」です。
- 「事務処理は雑だが、新規開拓のアポ取りだけは天才的」
- 「会議では喋らないが、資料を作らせると論理構成が完璧」
これらの「偏り」こそが才能の正体です。「雑さを直せ」「もっと喋れ」と指導した瞬間、その才能は死にます。
Step 2: キャスティング(配役)を動的に変える
「営業職だから」「事務職だから」という職種(Job Description)に人を縛り付けるのをやめましょう。これを「ジョブ・クラフティング」と言います。
- Before: 全員が「テレアポ」も「資料作成」も「商談」もやる。
- After: Aさんはテレアポ専任、Bさんは資料専任、Cさんは商談専任。
弱み(不得意なこと)をしている時間は、生産性が最も低い時間です。その時間を組織から極限まで排除し、強み(得意なこと)をしている時間の純度を高めることが、リーダーの腕の見せ所です。
Step 3: 弱みを「愛嬌」として再定義する
ピーター・ドラッカーはこう言いました。
「成果をあげる者は、仕事からスタートしない。人からスタートする」 「強みの上に築け。弱みは意味をなさないようにすればよい」
プロデューサー型チームでは、弱みは「直すべきもの」ではなく、「他のメンバーが活躍するための余白(助け代)」になります。 「私は計算が絶望的にできない。だから君の力が必要なんだ」 リーダーがそう宣言することで、相互補完の関係(チームワーク)が初めて機能します。
結論:あなたは「脚本」を渡しているか?
もし部下が輝いていないとしたら、それは部下の能力不足ではなく、あなたが渡した「脚本(役割)」が合っていないだけかもしれません。
管理職の仕事は、部下の誤字脱字をチェックすることではありません。 「このメンバーの才能が、最も高く売れる市場(舞台)はどこか?」 それを考え抜き、スポットライトを当てることこそが、人的資本経営時代のリーダーシップです。
さあ、今日は部下の「ダメなところ」ではなく、「尖ったところ」をメモすることから始めてみませんか?

