「ウチには強烈なリーダーシップを持った人材がいない」 「管理職研修をやっても、現場が変わらない」

多くの経営者や人事がこの悩みに直面し、莫大なコストをかけて「リーダー育成」に励みます。 しかし、あえて断言します。その投資の優先順位は間違っています。

なぜなら、組織においてリーダーと呼ばれる人間はほんの一握りであり、残りの大多数は「フォロワー(部下)」だからです。 カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授の研究によれば、組織が出す成果の「80〜90%」は、リーダーではなくフォロワーの行動によって決定されます。

それなのに、なぜ私たちは「リーダーシップ」ばかりを神格化し、「フォロワーシップ」を軽視するのでしょうか? それは、フォロワーシップを「リーダーに従うだけの受動的なスキル」だと誤解しているからです。

本記事では、この誤解を解き、リーダーを裸の王様にしないための「批判的思考」と「能動的関与」を兼ね備えた、真のフォロワーシップのインストール方法を解説します。


第1章:フォロワーは「脇役」ではない。共同生産者である

まず、マインドセットの転換が必要です。 フォロワーシップとは、リーダーの指示待ちをすることでも、カバン持ちをすることでもありません。

リーダーシップとフォロワーシップは、「役割(Role)」の違いであり、「上下関係(Hierarchy)」ではありません。

  • リーダーの役割: ビジョンを示し、決断する。
  • フォロワーの役割: そのビジョンを咀嚼し、現場で具現化し、リーダーの死角を補う。

両者は、組織の成果を生み出すための「共同生産者(Co-Producers)」です。 優秀なフォロワーがいなければ、どんなに素晴らしい戦略も、パワーポイント上の画餅に終わります。 組織開発において最もレバレッジが効くのは、たった一人のカリスマリーダーを探すことではなく、大多数のフォロワーのOSを「従順」から「自律」へと書き換えることなのです。


第2章:あなたの部下はどのタイプ? ケリーの5類型

では、どのようなフォロワーが求められるのでしょうか。 ロバート・ケリーは、フォロワーを「貢献力(Active Engagement)」と「批判的思考力(Critical Thinking)」の2軸で5つのタイプに分類しました。

  1. 模範的フォロワー(Exemplary Followers):
    • 貢献力も批判力も高い。自ら考え、リーダーに提言し、かつ全力で実行する。目指すべきはここです。
  2. 孤立型フォロワー(Alienated Followers):
    • 批判力は高いが、貢献しない。「評論家」や「冷笑家」。能力はあるが組織の癌になりやすい。
  3. 順応型フォロワー(Conformist Followers):
    • 貢献力は高いが、批判しない。いわゆる「イエスマン」。リーダーが間違った時、一緒に崖から落ちる。
  4. 消極的フォロワー(Passive Followers):
    • どちらも低い。「指示待ち人間」。
  5. 実務型フォロワー(Pragmatic Survivors):
    • リスクを冒さず、そこそこにこなす。「事なかれ主義」。

「イエスマン」はリスクである

多くのリーダーは、本能的に「順応型(イエスマン)」を可愛がります。扱いやすいからです。 しかし、現代のような複雑で変化の激しい時代(VUCA)において、順応型だけの組織は脆弱です。 リーダー一人の脳みそが限界を迎えた時、誰もブレーキを踏まず、誰も代案を出さないからです。


第3章:最強の武器「批判的思考(Critical Thinking)」

模範的フォロワーの条件である「批判的思考」とは、文句を言うことではありません。 リーダーの決定に対し、「目的は何か?」「他に選択肢はないか?」「リスクは見落とされていないか?」と、建設的な問いを立てる能力です。

「上司をマネジメントする」気概

真のフォロワーシップとは、一種の「ボスマネジメント」です。

  • 上司の情報不足を補う。
  • 上司のバイアス(偏り)を指摘する。
  • 上司が感情的になっている時にブレーキをかける。

これらは、部下だからこそできる機能です。 「部長、その方針には賛成ですが、現場の視点から見ると〇〇というリスクがあります。代わりに△△という手を加えませんか?」 このように、「No」を言うのではなく「Yes, and(賛成、そして補足)」で返す技術。これこそが、組織を救う批判的思考です。


第4章:フォロワーシップをインストールする仕組み

精神論で「主体性を持て」と言っても人は変わりません。 組織の仕組みとして、フォロワーシップを発揮しやすい環境を設計する必要があります。

1. 「提言する権利」と「実行する義務」をセットにする

会議で意見を言わせるだけでなく、「言い出しっぺに任せる」文化を作ります。 ただし、丸投げではありません。「君の案を採用する。だから君がリーダーとして進めてくれ。権限は渡す」と。 批判が単なる批判で終わらず、「自分の仕事」に変わる回路を作ることで、孤立型(評論家)を模範型へと引き上げることができます。

2. 「バッドニュース・ファースト」の称賛

順応型(イエスマン)が多い組織では、悪い報告が上がってきません。 リーダーは、不都合な真実を持ってきた部下を「よくぞ言った!」と称賛しなければなりません。 「空気を読まずに発言すること」が安全だと認識された時、初めて健全な批判的思考が育ちます。


結論:全員がリーダーになる必要はない

「全員経営」という言葉がありますが、全員が船長になって舵を奪い合ったら船は沈みます。 必要なのは、全員が船長になることではなく、全員が「当事者意識を持ったクルー(模範的フォロワー)」になることです。

  • 船長の指示ミスに気づき、指摘できるクルー。
  • 自分の持ち場で、独自の判断で穴を塞げるクルー。

リーダーシップ研修をするなとは言いません。 しかし、その前に、組織のOSであるフォロワーシップを見直してください。

あなたの部下は、あなたに「Yes」と言うだけの存在ですか? それとも、あなたの背中を守り、時には進路修正を迫る「パートナー」ですか?

「私に従うな。ビジョンに従え」 そう宣言し、部下の批判的思考を歓迎すること。それが、あなたがリーダーとして最初になすべき仕事です。

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