「誰よりも早く出社し、誰よりも数字を上げている。なのに、なぜあいつが先に昇進するんだ?」

ビジネスの世界には、こうした残酷な現象が溢れています。 個人のパフォーマンス(実務能力)は間違いなくトップクラス。しかし、ある地点から急に評価が頭打ちになり、組織の中で「使い勝手のいい便利屋」として固定化されてしまう。

なぜでしょうか? それは、あなたが「キャリアの階段(Steps)」を「延長戦」だと勘違いしているからです。

ハーバード・ビジネス・スクールのジーン・ダルトンとポール・トンプソンは、エンジニアやマネージャーの調査から「プロフェッショナルの成長には4つの段階がある」ことを発見しました。 彼らの結論は衝撃的です。 「前の段階で評価された行動を続けることは、次の段階では『無能』の証明にしかならない」

本記事では、多くのハイパフォーマーが陥る「第2段階の罠」を解明し、そこから脱出して組織の中枢へと影響力を広げるためのロードマップを提示します。


第1章:キャリアは「直線」ではなく「変態」である

多くの人は、キャリアを「今の仕事の延長線上」にあると考えます。 「もっと速く、もっと正確に処理すれば偉くなれる」と。 しかし、ダルトンモデルによれば、ステージが変わるごとに求められる役割は「非連続」に変化します。 昆虫が「幼虫→サナギ→成虫」と姿を変えるように、ビジネスパーソンも働き方を「変態(Metamorphosis)」させなければなりません。

4つのステージ概略

  1. 見習い(Apprentice): 依存して学ぶ。
  2. 独り立ち(Individual Contributor): 自立して成果を出す。
  3. メンター(Mentor): 他者を通じて成果を出す。
  4. スポンサー(Sponsor): 組織の方向性を決める。

問題なのは、9割のビジネスパーソンが「ステージ2」で成長を止めてしまうことです。


第2章:Stage 1 & 2「依存」から「自立」へ

まずは、若手から中堅へのステップです。ここは多くの人が順調にクリアします。

Stage 1:見習い(依存)

  • 役割: 上司や先輩の指示に従い、手助けを受けながらタスクをこなす。
  • 成功の鍵: 「素直さ」と「基礎スキルの習得」。
  • 卒業条件: 指示がなくても一人で業務を完遂できるようになった時。

Stage 2:独り立ち(自立)

  • 役割: 自分の専門領域を持ち、他者に頼らず高い成果を出す。いわゆる「エースプレイヤー」。
  • 成功の鍵: 「専門性」と「個人の実績」。
  • 陥りやすい罠:
    • ここが最大のボトルネックです。多くの人は「もっと凄いStage 2」になろうとします。
    • 誰よりも詳しくなり、誰よりも抱え込む。しかし、組織が求めているのは「スーパープレイヤー」ではなく、次のステージへの移行です。
    • Stage 2に留まり続けると、加齢とともに「給料が高い割に使いにくい専門家」と見なされ、リストラ候補になります。

第3章:Stage 3「他者への貢献(メンター)」への壁

ここが「出世する人」と「現場で終わる人」の分水嶺です。 Stage 3への移行には、強烈なアンラーニング(学習棄却)が必要です。

「自分の手柄」を捨てる勇気

Stage 3の定義は、「他者を通じて(Through Others)成果を出すこと」です。

  • Stage 2の思考: 「私がやった。私の成果だ」
  • Stage 3の思考: 「彼らがやった。私は環境を整えただけだ」

かつてのエースプレイヤーにとって、他人に仕事を任せることは「品質低下」や「自分の存在意義の消失」に見えます。 しかし、ここで「自分がボールを持つのをやめる」という決断をしなければなりません。

役割の拡張

Stage 3の人間は、複数の領域を繋ぐ「ハブ」になります。 自分の専門知識を独占せず、後輩に教え、他部署と連携し、チーム全体の生産性を高める。 「あいつに相談すれば、なんとかなる」 そう周囲から頼られるようになった時、あなたはStage 3に到達しています。


第4章:Stage 4「組織の方向付け(スポンサー)」

この段階に到達するのは、全社員の数%です。 部長や役員クラスに求められる領域です。

「未来」を定義する力

Stage 4の役割は、組織の進むべき方向(ビジョン)を示し、リソース(人・モノ・金)を調達することです。 社内だけでなく、社外のネットワークを駆使し、新しい市場機会を見つけ出す「探索者」でもあります。

彼らは、現場の細かいオペレーションには口を出しません(それはStage 3の仕事です)。 その代わり、「我々は何者か?」「何のために戦うのか?」という問いに答えを出し、組織のアイデンティティを確立します。


第5章:あなたは今、どのステージにいるか?

重要なのは、「職位(役職)」と「ステージ(行動)」は必ずしも一致しないということです。 「課長」という肩書きを持ちながら、やっていることは「Stage 2(プレイヤー)」のまま、という人はごまんといます。これを「名ばかり管理職」と呼びます。

移行するためのアクションプラン

もしあなたが「評価されない」と悩んでいるなら、以下のチェックリストで自己診断してください。

  • Q1. 自分の成果をアピールすることに必死になっていないか?
    • → Yesなら、あなたはまだStage 2です。Stage 3へ行くなら、部下の成果をアピールしてください。
  • Q2. 「自分でやった方が早い」と思って仕事を抱えていないか?
    • → Yesなら、永遠にStage 2です。60点の出来でもいいから任せることが、Stage 3への入場券です。
  • Q3. 社内のことしか見ていないか?
    • → Yesなら、Stage 4には行けません。競合他社、市場、顧客の未来に目を向けてください。

結論:キャリアとは「自分」という枠を壊し続ける旅

ダルトンの4段階モデルが教えてくれる残酷な真実。 それは、「一つのステージでの成功体験こそが、次のステージへの最大の障害になる」ということです。

「一生現場でコードを書いていたい」「職人でありたい」 それも一つの生き方ですが、組織という生き物の中で評価され、大きな仕事をするには、ステージを上げる(役割を変える)ことが不可欠です。

今、あなたが手放すべき「得意技」は何ですか? 今、あなたが育てるべき「後継者」は誰ですか?

「自分」のために働くのをやめ、「他人」のために働き始めたとき。 パラドックスのようですが、その時初めて、あなたのキャリアは「自分一人では到達できない高み」へと飛躍し始めます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です