はじめに

「新人をしっかり褒めているのに、なかなか距離が縮まらない」「頑張っているのに手応えを感じられない」——そんな経験をしたことはありませんか?

実は、“褒める”ことと“伝える”ことは似ているようでいて、心理学的には全く異なるアプローチです。そして、新人との信頼関係を築くうえでは、「どのように伝えるか」が極めて重要になります。

この記事では、褒めることの落とし穴と、信頼関係構築に必要な心理学的コミュニケーションについて、実践的な視点で解説します。

“褒める”ことの意義と限界

もちろん、褒めることには意味があります。ポジティブ心理学では、肯定的なフィードバックがモチベーションや自己効力感を高めることが示されています。

しかし、褒め方を間違えると逆効果になることもあるのです。たとえば、

  • 「すごいね」「偉いね」などの抽象的な褒め言葉
  • 結果だけを評価し、プロセスを見ていない
  • 頻繁すぎて“ご機嫌取り”に聞こえる

こうした褒め方は、相手に「本当に自分のことを見てくれているのだろうか?」という不信感を抱かせてしまう可能性があります。

“伝える”とは、相手の内面に届くコミュニケーション

心理学では、効果的な対人関係スキルのひとつに「Iメッセージ(自分を主語にした表現)」があります。

「すごいね」といった評価的な言葉よりも、

  • 「あなたのあの資料、読みやすくて助かったよ」
  • 「工夫してくれていたのが伝わって、嬉しかった」

といった、自分の感情や視点を交えた表現の方が、相手には伝わりやすく、信頼関係が築かれやすいのです。

“伝える”とは、単に良い・悪いを評価するのではなく、「自分がどう受け取ったか」を丁寧に届ける行為。それが、相手に「ちゃんと見てもらえている」という安心感を与えます。

“褒める”と“承認”の違い

心理的アプローチでは、「褒める」と「承認する」は異なる意味を持ちます。

  • 褒める:結果や行動に対する評価(例:この資料、すごくできてるね)
  • 承認する:存在やプロセスに対する肯定(例:わからない中でも一生懸命調べてくれたんだね)

新人の育成においては、承認のほうが心理的な効果が高いことがわかっています。特に仕事にまだ慣れていない段階では、結果が出ることよりも、「見てくれている」「分かってもらえている」と感じられることの方が、安心感や意欲に繋がるのです。

信頼関係を築くための3つの“伝える力”

✅ 1. “具体的”に伝える 「頑張ってたね」ではなく、「〇〇の対応を自分で考えて動いていたね」と、具体的な行動を言葉にすることで、相手は「ちゃんと見てもらえている」と感じられます。

✅ 2. “プロセス”に注目する 結果だけでなく、そこに至るまでの努力や工夫を伝えることが、成長意欲に火をつけます。

✅ 3. “感情”を交えて伝える 「ありがとう」や「助かったよ」など、自分の感情を素直に伝えることで、相手にとって“人としてのつながり”が生まれます。

なぜ“伝える”ことが新人の安心感につながるのか

社会人としての第一歩を踏み出したばかりの新人にとって、「自分の行動がどう見られているか」は常に気になるテーマです。

心理的安全性(Psychological Safety)の理論でも示されているように、周囲にどう思われているかがわからない状態では、人は発言や行動を控えるようになってしまいます。

だからこそ、伝える側が「見ているよ」「ちゃんと気づいているよ」と伝えることで、相手にとっての“安心の土台”が築かれます。その安心感こそが、挑戦や自発性を育む鍵なのです。

おわりに:関係性は“言葉の質”で決まる

新人育成は、ただ業務を覚えさせることではありません。仕事を通じて「信頼される体験」「受け止めてもらえる経験」を積み重ねることが、彼らの社会人としての成長に直結します。

そのためには、“褒める”ことよりも、“伝える”という対話の質にこだわることが大切です。

誰もが最初は不安を抱えて社会に出ます。だからこそ、先輩や上司のひとことが、人生を変えるほどの影響を与えることもあるのです。

ぜひ明日からの関わりの中で、「評価する」のではなく、「伝える」ことを意識してみてください。

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