はじめに

新人を育てる——それは決して「知っていることを教える」だけではありません。

実は、教える立場になることで自分自身の視点が深まり、仕事の本質を見つめ直す機会が生まれます。そして、心理学の知見を取り入れたコミュニケーションを活用することで、教える人も教わる人も、より深い学びと成長を得ることができるのです。

この記事では、「教える側の成長」に焦点を当てながら、新人育成に役立つ心理学的コミュニケーションのポイントを紹介します。

教えることで“理解が深まる”のはなぜか?

教育心理学において、「教えることは最高の学び」とも言われています。これは「学習のピラミッド(ラーニング・ピラミッド)」の概念によっても裏付けられています。

このピラミッドでは、人は読んだ情報のうちわずか10%しか記憶に残らないのに対し、自ら“教えた”内容については90%以上を記憶に留めるとされています。

つまり、新人に教える過程で、「なぜこの業務をこの手順でやるのか」「どんな意図があるのか」を自分で再確認することになり、仕事に対する理解が格段に深まります。

また、相手に合わせて伝え方を変える工夫を重ねる中で、自分自身のコミュニケーション力も自然と鍛えられていくのです。

信頼関係がなければ、伝えたいことは届かない

心理学では「信頼残高(Emotional Bank Account)」という概念があります。これは、人間関係においても“信頼の貯金”が必要であり、良好な関係性は日々の積み重ねでしか生まれないという考え方です。

新人との信頼関係を築くには、まず“承認”が重要です。「できていること」に焦点を当て、「ありがとう」「助かったよ」といった言葉で感謝や労いを伝えることで、相手の自己効力感(Self-Efficacy)が高まりやすくなります。

注意や指摘をする場面でも、「まず受け止めてから伝える」ことが大切です。「こうしてくれて嬉しかったけど、ここだけ工夫できるともっと良くなるね」といったフィードフォワード的な伝え方が効果的です。

“聞く力”が教える力を育てる

一方的に伝えるのではなく、相手の反応を見て、理解度や感情に合わせて会話を組み立てる——これは心理学的には「アクティブリスニング(積極的傾聴)」と呼ばれるスキルです。

相手の言葉を遮らず、うなずきや相づちを挟みながら最後まで聞き、「なるほど、そう考えたんだね」と感情を受け止めるフィードバックを返す。この姿勢は、新人に「自分の意見を聞いてくれている」という安心感を与えます。

特に新社会人は、自己開示に対する不安が強い傾向があります。心理的安全性を確保するためにも、まずは聞く姿勢から信頼関係を構築していくことが大切です。

ティーチングとコーチングのバランス

教える場面では、「知識や手順を伝える=ティーチング」と「問いかけて気づきを促す=コーチング」のバランスが重要です。

業務の初期段階では、必要な情報を的確に教えるティーチングが中心になりますが、一定の経験を積んできたら、あえて問いかけを使って自ら考えさせるコーチングが効果的です。

「この資料、どう整理すればもっと見やすくなるかな?」「自分だったらどこに注目する?」と問いかけることで、新人の主体性や創造性が引き出されていきます。

この“考えさせる”関わり方は、教える側にとっても「自分ならどう伝えるか」を言語化する機会となり、深い学びへとつながります。

教えることで得られる“3つの成長”

✅ 1. 思考の整理力が高まる 言語化することで、自分の中にある“あいまいな知識”を明確にすることができます。

✅ 2. 共感力・傾聴力が磨かれる 相手の反応を受けて言葉を調整する過程で、他者理解のスキルが育ちます。

✅ 3. 自信と責任感が育まれる 「自分が誰かを導いている」という体験は、仕事への責任感や自尊感情を育ててくれます。

おわりに:新人育成は“自分育成”でもある

教えることは、単なる技術伝達ではなく、関係性を育て、共に成長するプロセスです。

心理学の知見を活かしたコミュニケーションを意識することで、伝える力・聞く力・育てる力が総合的に伸びていきます。

新人の可能性を引き出すことは、自分の可能性にも気づくこと。

「教える」ことに、ぜひ自信と楽しさを感じながら取り組んでみてください。

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