1. はじめに
「窓際族」という言葉は、組織内で役割や責任を与えられず、表面的には在籍しているものの、実質的に仕事がない、または軽視されている社員を指します。
近年、コストパフォーマンスの良さを考え、あえて窓際族を目指し、プライベートに重点を置くことを狙いとする社員もいます。
特に大企業や官僚的な組織でこの現象が多く見られ、日本の労働環境における一つの問題とされています。では、なぜこのような「窓際族」が生まれるのでしょうか。
2. 考察にあたって
窓際族が生まれる背景には、組織の構造的な問題や個人のキャリア選択、さらには企業文化における年功序列や終身雇用の影響が絡んでいます。これらが複雑に絡み合うことで、組織内で役割を失った社員が存在する状態が生じてしまうのです。
窓際族が仕事をしない分、そのしわ寄せがいく社員が悩み、業務的負担や精神的負担でつぶれてしまう可能性もあります。今回は、具体例も含め、窓際族が生まれる理由とその防止策を考察していきます。
3. 窓際族が生まれる主な理由
1 年功序列と終身雇用制度
日本の大企業では、長年にわたり年功序列や終身雇用が一般的な雇用形態とされてきました。この制度のもとでは、年齢や勤続年数に応じて自動的に昇進や昇給が行われるため、組織内のポストが埋まりやすくなります。しかし、全員が昇進し続けるわけではなく、一部の社員は年齢やキャリアの段階で昇進の限界に達することがあります。この際、役職が与えられず、組織内での明確な役割を失い、結果として「窓際族」としての扱いを受けることが増えます。
また、キャリアごとに昇進の限界がある場合は、若手のときから昇給のペースや限界を悟る社員も多いです。その場合、特に役割がなくても、お給料が変わらないまま年を重ねるごとに昇給できる、という気持ちから窓際族に流れる社員もいます。
具体例
ある大手メーカーのコーポレート部門に入社したAさんは、ICTの知識に長けており、若手の間に多くの優秀なツールを作りました。しかし、この会社は年功序列で昇進や昇給をする企業であったため、Aさんの評価にはつながりませんでした。その結果、Aさんは自身の持つICTのスキルを会社に提供しなくなり、定時で上がるためだけにその知識を使うようになりました。毎日定時で上がっているため、会社からは窓際族扱いをされ、業務も少なくなりましたが、Aさんはその知識を副業で活用し稼ぐようになり、この会社が良いベーシックインカムになると考え、あえて窓際族を続ける選択をしました。
このケースでは、スキルがあるにもかかわらず、それを活かせる仕事や評価がないことで、Aさん自身がやる気を失い、窓際族となってしまいました。Aさんの状況を回避するためには、どのような対応をすればよかったのでしょうか。あえて窓際族になろうとする社員を阻止するための対策は、多くの年功序列の企業での課題となっています。
2. 能力や適性のミスマッチ
組織の成長や市場の変化により、求められるスキルや能力が変わることがあります。これに伴い、社員が従来のスキルセットでは対応できなくなることも少なくありません。特に新しい技術や業務フローに適応できない社員は、業務での活躍が難しくなり、結果として役割が減少することになります。このような場合、解雇が難しい日本の雇用慣行の下では、業務から外され、窓際族として取り扱われる可能性が高まります。
具体例
Bさんは長年、大手通信会社の営業部門で活躍していましたが、デジタルマーケティングへの転換が進む中で、新しい技術に適応できずに業績が低迷しました。その後、直接的な営業活動から外され、デスク業務に従事するようになりましたが、実質的な業務はなく、窓際族状態となってしまいました。
このケースでは、Bさんが新しい業務フローや仕事内容に順応できていません。定期的な異動で全く別分野の部署へ移動する例もあるかと思いますが、スキルセットが活かせない場合、どのように対応するかが課題として挙げられます。
3. マネジメントの問題
組織内のマネジメントが適切に機能していない場合、社員のスキルや強みを活かす機会が失われることがあります。特に上層部の意向や偏見により、特定の社員が過小評価されたり、不適切な役割に配置されたりすることで、社員が窓際に追いやられることがあります。
具体例
ある製造業のCさんは、海外の市場展開において優れた実績を持っていましたが、社内の派閥争いに巻き込まれ、国内業務に異動させられました。Cさんは自分のスキルを活かせない業務に従事することになり、やがて窓際に追いやられる結果となりました。
このケースでは、Cさんは意図的に能力を活かせない部署に異動させられています。優秀な能力があっても、適切に評価されない場合、ミスマッチを防ぐための措置が重要な課題となります。
4. 解決策
窓際族を減らすためには、組織としてのマネジメント能力の向上や、社員一人ひとりのスキルに応じた役割を提供するための柔軟な人材活用が求められます。年功序列や終身雇用に依存しすぎず、社員のキャリアパスや能力開発をサポートすることで、組織の全員が活躍できる環境を整えることが重要です。
●Aさんの場合~年功序列と終身雇用制度に対する解決策~
- パフォーマンスベースの評価システムの導入
年功序列制度では年齢や勤続年数が重視されがちですが、パフォーマンスに基づいた評価システムを導入することで、実際の業績や貢献度に応じた昇進や報酬を行うことが可能です。これにより、年齢に関係なく能力や成果を基準に評価される環境を作ることができます。
例えば、年齢や勤続年数ではなく、KPI(Key Performance Indicators)やOKR(Objectives and Key Results)に基づく定量的な評価制度を導入することは効果的です。これにより、若手社員が成果を出すことで、年配の社員と同じかそれ以上のキャリアアップが可能になるような制度を創ります。 - キャリア開発プログラムの実施
年齢による昇進の固定概念を打破するため、社員全員にキャリア開発の機会を提供することが重要です。トレーニングやスキルアップの機会を提供することで、社員が年齢に関係なく、常に成長し続けられる環境を作り出します。年齢や勤続年数に関わらず、リーダーシップや技術スキル向上のための研修を全社員に提供し、全員が公平にキャリアアップを目指せるようサポートする体制をつくりましょう。
●Bさんの場合~能力や適性のミスマッチに対する解決策~
- 社員のスキルマッピングと適材適所の配置
社員一人ひとりのスキルや適性を可視化するため、スキルマッピングを行い、それに基づいて適材適所の配置を行います。これにより、従来の業務に合わない社員も新しい役割で能力を発揮できる環境が整います。定期的なスキルアセスメントを行い、技術や業務スキルの可視化を進め、ミスマッチが発生した場合は別部門や新プロジェクトへ異動させることを検討します。技術力が衰えた社員でも、マネジメントや人材育成の面で貢献できる役割を提供できるかを考えます。 - リスキリング(再教育)プログラムの導入
急速な技術革新に対応するため、社員に対してリスキリング(再教育)プログラムを導入し、業界の変化や新しい技術に対応できるスキルを習得させます。これにより、現行業務で適応できなくなった社員でも、他の分野で活躍するチャンスを提供します。例えば、DX(デジタル変革)に伴い、営業部の人数を縮小したい場合、営業社員に対してデジタルマーケティングやデータ分析のトレーニングを提供し、営業スキルを持つ社員が新たな役割で貢献できるようにサポートしていく体制を整えます。
●Cさんの場合~マネジメントの問題に対する解決策~
- 派閥の問題に対処し、公平な評価制度を導入
派閥争いによる不公平な配置や評価は、社員のやる気を低下させます。最優先事項として、派閥による影響を排除し、公平で透明性のある評価制度を導入することが挙げられます。社員の業績やスキルに基づいて、客観的に評価・昇進の判断を行う仕組みを整えることで、派閥争いの影響を最小限に抑えます。その体制自体を払拭しない限りは、下記で述べる方法を実施したとしても効果は期待できないため、まずは組織体制を考えてみてください。 - エンパワーメントとリーダーシップトレーニング
マネジメント側が特定の社員を過小評価しないよう、リーダーシップトレーニングやエンパワーメント(権限委譲)を進め、社員に対して責任と裁量を与える文化を育成します。管理職やリーダー層に必要なスキルを習得させ、チームを効果的に指導できるよう育成するプログラムです。これにより、リーダーが部下の問題を早期に発見し、適切な対応を取る能力を持つようになります。また、リーダー自身が従業員をエンパワーメントする方法を理解し、個々の力を引き出すことができるようになるため、組織全体がより柔軟で成果を上げやすい環境になります。
結論
窓際族の問題を解決するためには、パフォーマンスベースの評価システム、スキルマッピングとリスキリング、そして透明なコミュニケーションとリーダーシップの強化が必要です。これらの取り組みを通じて、年齢や適性のミスマッチを解消し、全社員が活躍できる職場環境を整えることが可能です。

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