「入社した頃のような熱量がない」 「仕事はそつなくこなせるが、ワクワクもしない」 「このまま、この会社にいていいのだろうか?」

30代前後の中堅社員や、ある程度の実績を出したハイパフォーマーこそ、こうした「霧の中にいるような停滞感」に襲われます。 これをキャリア心理学では「キャリア・プラトー(高原状態)」と呼びます。

多くの人は、このモヤモヤを解消するために「資格の勉強」や「転職サイトの登録」に走ります。しかし、それは対症療法に過ぎません。 なぜなら、停滞感の本質は「スキルの欠如」ではなく、「自己効力感(Self-Efficacy)の低下」にあるからです。

「自分なら、もっと高い壁を越えられる」という確信が薄れ、現状維持バイアスがかかっている状態。 本記事では、心理学者アルバート・バンデューラの理論をベースに、低下した自己効力感を科学的に回復させ、停滞期を「次なる飛躍への滑走路」に変える技術を解説します。


第1章:なぜ「停滞」を感じるのか?(S字カーブの罠)

まず、停滞感は「悪」ではありません。成長のプロセスにおいて必然的に訪れるフェーズです。

ビジネスの成長曲線は、直線(リニア)ではなく「S字カーブ(ロジスティック曲線)」を描きます。

  1. 導入期: できないことだらけで、必死に学ぶ時期。
  2. 成長期: 急激にスキルが伸び、成果が出る時期。
  3. 成熟期(プラトー): 業務に慣れ、成長の鈍化を感じる時期。

あなたが今「停滞している」と感じるのは、1つ目のS字カーブの頂上(成熟期)に達したからです。これは「順調に成長した証」でもあります。

しかし、ここから2つ目のS字カーブ(新しい挑戦)に飛び移るには、大きなエネルギーが必要です。 そのエネルギー源となるのが、「私なら次のステージでも通用する」という根拠なき自信=「自己効力感」なのです。


第2章:自己効力感を構成する「4つのエンジン」

スタンフォード大学の心理学者アルバート・バンデューラは、自己効力感を高めるには4つの情報源(エンジン)があることを発見しました。 あなたのエンジンは、どれが錆び付いているでしょうか?

1. 達成体験(Mastery Experience)

  • 定義: 「自分でやって、できた」という成功体験。最も強力なエンジン。
  • 停滞の原因: 仕事がルーチン化し、「挑戦して勝つ」というヒリヒリする体験が減っている。

2. 代理体験(Vicarious Experience)

  • 定義: 「あの人にできるなら、自分にもできそう」というモデリング。
  • 停滞の原因: 社内に目指すべきロールモデルがいない、または「あの人は天才だから」と別枠扱いしてしまっている。

3. 言語的説得(Verbal Persuasion)

  • 定義: 「君ならできる」と他者から励まされること。
  • 停滞の原因: 中堅になり、褒められる機会が激減し、指導や調整役ばかり増えている。

4. 生理的・情動的状態(Physiological States)

  • 定義: 心身のコンディション。「ドキドキする=ワクワクしている」と捉えられるか。
  • 停滞の原因: 疲れが溜まり、高揚感を「不安」や「ストレス」として処理してしまっている。

第3章:自信をハックする「スモールウィン」戦略

理論がわかったところで、錆び付いたエンジンを再起動させる具体的なアクションに移りましょう。 最も即効性があるのは、1つ目の「達成体験」の意図的な設計です。

大きな目標を捨て、極小の勝利を拾う

停滞期に「いきなり起業」や「大型プロジェクト」を目指すと、失敗して余計に自信を失います。 必要なのはホームランではなく、確実に塁に出る「スモールウィン(小さな勝利)」です。

  • Before: 「英語をマスターする(遠すぎる目標)」
  • After: 「今日、通勤電車で単語を3つ覚えた(完了)」

「やろうと決めたことを、やりきった」 この事実を脳にインプットし続けることでしか、自己効力感は回復しません。 「自分との約束を守る」。この積み重ねが、やがて「自分は何でもできる」という万能感に変わります。


第4章:「ロールモデル」の選び方を変える

次に、2つ目の「代理体験」のハックです。 多くの人は、イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズを見て「自分には無理だ」と落ち込みます。これはモデルの選び方が間違っています。

「半歩先」の先輩を見つける

自己効力感を高めるのに最適なモデルは、「自分と似た境遇で、少しだけ成功している人」です。

  • 異業界のスーパーマンではなく、社内の「少し優秀な先輩」。
  • 雲の上の経営者ではなく、泥臭く課題解決している「同僚」。

「彼にあれができたのなら、同じリソースを持っている私にもできるはずだ」 そう思える「射程圏内」のモデルを観察し、その行動を徹底的にパクってください(TTP:徹底的にパクる)。 それが、あなたのOSをアップデートする最短ルートです。


結論:停滞期は「次のジャンプ」のための助走区間

キャリアの停滞感は、あなたが無能だから感じるのではありません。 あなたが今のステージをクリアし、「次のゲーム」を求めているサインです。

この時期に焦って転職や資格取得に逃げる前に、まずは自分の足元にある「自己効力感」のタンクを満タンにしてください。

  • 小さな約束を守り、達成感を味わう。
  • 身近なモデルを見つけ、自分に重ね合わせる。

そうやって自信のエネルギーが溜まった時、自然と「あ、次はこれをやりたい」という意欲が湧いてきます。 その時こそが、2つ目のS字カーブへ飛び移る、最高のタイミングです。 今は焦らず、深く屈んで、次のジャンプの準備をしましょう。

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