言いたいことが言えないのは、あなたのせいではない
「言いたいことが言えない」
「本音を飲み込んでしまう」
「会議で発言のタイミングを逃す」
これらは“性格の弱さ”ではありません。
脳にはもともと 危険を避けるために言葉を抑える仕組み(発話抑制) が存在します。
言えない状態が続くのは、脳があなたを守ろうとしているサインでもあります。
本記事では、そのメカニズムを分かりやすく解説します。
1. 本音を飲み込むとき、脳では何が起きている?──「発話抑制システム」
人が話すとき、脳内では以下の3つが同時に働きます。
- 言いたいことを思いつく(前頭前野)
- 内容を言葉に変換する(言語野)
- 言っても大丈夫かチェックする(扁桃体・帯状皮質)
この「③チェック機能」が強く働きすぎると、
言いたいことが喉まで出ているのに言えない状態 が起こります。
これが“発話抑制”です。
■ 扁桃体:リスクを過大評価する
扁桃体は危険を察知するセンサーで、
「否定されるかも」
「嫌われるかも」
「間違ってたらどうしよう」
というリスクを拡大して判断します。
結果として、
「黙っておこう」が最適解に見えてしまう のです。
2. なぜ「発話のブレーキ」が強くなるのか?
以下のような背景があると、脳のブレーキはさらに強化されます。
① 過去に否定された経験がある
・上司に意見を一蹴された
・親に「そんなのダメ」と言われて育った
・反論したら関係が悪化した
否定された記憶は脳に「社会的危険」として刻まれます。
扁桃体が
「また同じ目にあうかもしれない」
と過剰に警戒し、発話を止めます。
② 周囲の機嫌に敏感な人(感情モニタリング過多)
相手の表情・声色・気分を読みすぎると、
脳は“相手を怒らせないこと”を最優先します。
その結果、
「言うと空気が悪くなるかも…」
「反応を予測すると怖い」
となり、本音が封印されます。
③ 完璧主義で「正しく話さないと」と思っている
言葉を発するたびに、
- 失敗したくない
- 間違いたくない
- 完璧に伝えたい
というチェックが走ると、
脳は話す前に“過剰な修正作業”を行います。
結果として、
発言のタイミングを逃す → 言えない自分に落ち込む
という悪循環に。
④ 慣れない人間関係や緊張環境にいる
新しい職場・初対面・会議など、
社会的リスクが高い場では、発話抑制が強まりやすいです。
脳は
「沈黙=安全」
と判断するため、言いたいことが出なくなります。
3. 発話抑制が続くとどうなる?
発言できない状態が慢性化すると、次のような影響があります。
- 自己肯定感が低下する
- 言えない自分が嫌になる
- ストレスが蓄積する
- 他人に振り回されやすくなる
- SNSや独り言で発散しがちになる
- 人間関係に距離が生まれる
言えないことは、心に“未処理の感情”として残り続けます。
4. 今日からできる「発話抑制を弱める」トレーニング
脳の安全装置は、少しずつ弱めることができます。
① いきなり本音を言わなくてOK。「短い主張」から始める
例:
「私は〜と思います」
「一つだけ補足してもいいですか?」
“言うことに慣れる”のが先です。
② 発言前に「最悪の想定」を書き換える
扁桃体が暴走するときは、
「もし否定されたら?」
と自動的に最悪シナリオを作ります。
そこで、意識して
「否定されても死なない」
と現実の安全性を思い出すことが大切です。
③ 言えなかった後、自分を責めない
発話抑制は脳の自動反応。
責めるほど扁桃体は敏感になり、さらに言えなくなります。
④ “安全な関係”で練習する
友人・家族・安心できる同僚など、
否定されにくい相手との会話で“本音を一言でも言う練習”が効果的。
脳が
「言っても大丈夫だった」
という成功経験を学習します。
⑤ 書く → 話すの順にすると言いやすくなる
・メモ
・チャット
・メール
まず文字で整理すると、発話の負荷が下がります。
まとめ:本音を言えないのは脳の“安全装置”が働いているだけ
言いたいことが言えない人は、
決して弱いわけでも、意志がないわけでもありません。
脳の“発話抑制システム”が
あなたを守ろうと頑張りすぎているだけ。
だからこそ、
少しずつ安全を学習させれば、確実に改善できます。
あなたの言葉は、あなたの人生を動かす力になります。
怖くても、“小さな一言”から始めてみてください。

