はじめに:マネージャー育成の新基準は「EQ」
多くの企業が「リーダー育成プログラム」を設けていますが、
成果に結びつくケースは意外と少ない。
その理由のひとつが──
「スキル」だけを教え、「感情」を育てていないこと。
どんなに優れた戦略やスキルを持っていても、
人の感情を理解し、共感でチームを動かす力がなければ、
マネジメントは機能しません。
いま求められているのは、
“共感型マネージャー”=EQの高いリーダーを育てることです。
EQ(感情知能)とは?なぜ今、注目されているのか
EQ(Emotional Intelligence)とは、
「自分と他者の感情を理解し、適切に扱う能力」を指します。
ハーバード大学の研究によれば、
リーダーシップの成功の90%はEQで説明できるとも言われています。
つまり、EQは“人を動かす力”の核心です。
感情のマネジメントができる人は、部下の信頼を得て、
心理的安全性を高め、チームを安定的に導くことができます。
EQを構成する4つの要素
- 自己認識(Self-awareness):自分の感情を正確に理解する力
- 自己管理(Self-management):感情をコントロールし、建設的に使う力
- 共感(Empathy):他者の感情を察知し、適切に対応する力
- 対人関係管理(Relationship management):信頼関係を築き、影響力を発揮する力
この4つを体系的に育てることで、
「人を理解し、動かせる上司」が生まれます。
EQを育てる3つのステップ
ステップ①:感情の“見える化”トレーニング
マネージャー自身が自分の感情パターンを把握することから始めます。
たとえば、1日の終わりに次のようなログを取ります:
- 今日、最もストレスを感じた瞬間は?
- どんな感情が生まれた?
- そのとき、どんな対応をした?
感情を「見える化」することで、無意識の反応を意識的に扱えるようになります。
ステップ②:“聴く力”のフィードバック訓練
EQを育てる最大の実践場は1on1です。
ここで重要なのは「アドバイスしない勇気」。
部下の話を最後まで聴く、
沈黙を恐れず間を取る、
感情の裏にある本音を拾う──これがEQ的マネジメントです。
さらに、1on1の録音・文字起こしを使って、
「聴けている」「遮っている」などをフィードバックする訓練も有効です。
ステップ③:“感情を扱う”リフレクション設計
EQを育てるには、日常の経験を感情ベースで振り返る習慣が不可欠です。
例えば会議後に次の問いをチームで共有します:
- 今日の議論で“温度が上がった瞬間”はどこだった?
- 誰がどんな感情を感じていた?
- それをどう扱ったらより良くできただろう?
このような「感情の振り返り」を組織のルーチンにすることで、
EQが文化として根づきます。
共感型マネージャーを育てる“環境デザイン”
EQを個人だけでなく組織で育てるためには、
「感情を表現していい文化」を設計することが重要です。
1. 感情を「共有」できる場をつくる
- 定例会で「今の気持ちを一言」で始める
- Slackなどで「感情トラッカー」チャンネルを設ける
→ 感情がオープンになると、衝突が減り、理解が深まります。
2. 上司のEQを“見える形で伝える”
マネージャー自身が「焦っていた」「落ち着きを取り戻した」と
感情を言語化して伝えることで、部下がEQ的行動を学びます。
3. EQを評価に組み込む
「チームの心理的安全性」「共感的コミュニケーション」などを
人事評価に反映することで、EQ育成が“組織行動”に転化します。
EQ育成の成功事例(国内外)
🔹 Google「プロジェクト・アリストテレス」
成功チームの共通項は“心理的安全性”。
この背景には「感情を扱うマネジメント文化」がありました。
🔹 日本企業A社(IT業界)
1on1で“感情チェックイン”を導入。
1年で離職率が18%→7%に改善。
EQ教育は、単なる「研修」ではなく組織の投資です。
まとめ:共感型マネージャーは“つくられる”
EQは生まれつきの資質ではありません。
日々の対話・振り返り・感情の扱い方を通じて、育てられます。
共感型マネージャーとは──
「感情を理解し、人を動かす上司」。
そして、その力はチームの幸福度・生産性・離職率をすべて左右します。
EQを育てることは、人と組織の“持続的成長”をデザインすることなのです。