はじめに──「話を聞いてくれる上司」と「気持ちをわかってくれる上司」は違う
1on1を重ねても、部下との距離が縮まらない。
「聞いているつもりなのに、なぜか信頼されない」──そんな悩みを抱えるマネージャーは少なくありません。
実はこの差は、「聴く技術」よりも“感情を読む力”の差にあります。
心理学では、他者の感情を正確に察知し、理解しようとする力を「エモーショナル・インテリジェンス(EQ)」と呼びます。
つまり、信頼される上司とは、相手の“言葉の奥にある感情”を読むことができる人なのです。
1. 感情を読む上司が、信頼を得る理由
信頼は、情報の正確さではなく「安心感」から生まれます。
部下が心を開くのは、「この人は自分の気持ちをわかってくれる」と感じたとき。
例えば、部下が「ちょっと大変です」と言ったときに、
- 感情を読まない上司は:「そうか。じゃあスケジュール見直そう」
- 感情を読む上司は:「“大変”って、プレッシャーを感じてるってことかな?」
この“ひと言の違い”が、信頼を分けます。
部下は自分の感情を受け止めてもらえることで、「この人には本音を話していい」と思えるのです。
2. 「共感」と「同情」は似て非なるもの
EQが高い上司は、部下に共感しますが、同情はしません。
この違いを理解することが、感情マネジメントの第一歩です。
- 同情(sympathy):相手の感情に“巻き込まれる”
- 共感(empathy):相手の感情を“理解して寄り添う”
例えば、部下がミスをして落ち込んでいるとき、
「大変だったね」「わかるよ」と感情を共有するだけでは、慰めに終わります。
一方、「そのとき、どんな気持ちだった?」と問いかける上司は、相手の感情の構造に興味を持っています。
EQが高い上司ほど、感情を扱う距離感が絶妙です。
冷たくもなく、甘すぎもしない。
そのバランスが、“信頼できる人”の雰囲気をつくるのです。
3. 部下の感情を読むための3つのヒント
感情を読む力は、生まれつきではなく「観察」と「質問」で鍛えられます。
以下の3ステップを意識するだけで、部下の本音が見えるようになります。
① 表情より“間”を見る
人は本音を話すとき、必ず沈黙が生まれます。
焦らず待てる上司は、その間にある感情を読み取っています。
② 言葉の“温度”を感じ取る
「大丈夫です」の言い方が、明るいのか、ため息混じりなのか。
同じ言葉でも、感情の温度差を感じ取る意識を持つことが大切です。
③ 感情を“仮説”として確認する
「今、少し悔しい気持ちもある?」
といった質問は、相手の感情を押し付けず、理解しようとする姿勢を示します。
この“仮説的な共感”こそ、信頼を築く最短ルートです。
4. 感情を読む上司は、組織を整える
マネージャーが部下の感情を理解できると、チームの空気が変わります。
・ミスが起きたときに「誰が悪いか」ではなく「何が起きたか」を話せる。
・不安を共有できることで、対策が早まる。
・小さな違和感が放置されず、トラブルの芽が早期に摘める。
つまり、感情を読む力は“組織の免疫力”を高めるのです。
一方で、感情を無視するマネジメントは、見えないストレスを積み上げ、
離職・モチベーション低下・報連相不足といった症状を引き起こします。
5. 感情を読む力を磨くための実践習慣
最後に、今日から実践できるEQトレーニングを3つ紹介します。
- ① 毎日「気づいた感情」を1つ書く
→ 自分の感情に敏感になると、他人の感情にも気づきやすくなる。 - ② 1on1で“気持ち”を聞く時間を取る
→ 「どう思う?」ではなく「どう感じた?」を聞く。 - ③ 感情の共有をポジティブに扱う文化をつくる
→ 上司自身が「今日は少し焦ってた」と話せることが、チームの安心感を生む。
まとめ──信頼は「理解されている」という感覚から生まれる
部下は、完璧な上司を求めていません。
求めているのは、自分の感情を理解しようとしてくれる上司です。
感情を読む力とは、決して特別なスキルではなく、
「相手の世界に興味を持つ姿勢」そのもの。
その小さな意識の積み重ねが、職場に信頼と安心を育てます。