はじめに

「会議はきちんとこなしているし、業務連絡も滞っていない。でも、チームの雰囲気がなぜか冷たい」。
そんな感覚を抱いたことはないでしょうか。実は、業務とは直接関係のない「雑談」が、チームにとって極めて重要な“心理的結合材”となっていることが、心理学や脳科学の研究からも明らかになっています。

雑談の本質は「共通の場」の生成

まず、「雑談」とは何かを定義してみましょう。ただの無駄話や時間つぶしと捉えられがちですが、雑談には重要な役割があります。それは、チームの中に「共通の場=共有された感情・経験・空気感」を生み出すことです。

臨床心理学では、このような“安心して感情をやりとりできる場”を「コンテイナー(container)」と呼びます。雑談はこのコンテイナーを強化する行為なのです。たとえば、「昨日見たドラマ」「おすすめのカフェ」「子どもの運動会」など、業務と関係ない話を通じて、互いの人間性や価値観を垣間見ることで、距離が縮まり、信頼感が芽生えます。

雑談がもたらす“心理的安全性”の正体

心理的安全性とは、組織行動学者エイミー・エドモンドソンによって提唱された概念で、「チームの中で自分の意見や感情を安心して表明できる状態」を意味します。この心理的安全性は、イノベーションや生産性、離職率の低下などと強く関係しています。

実際、Googleが行った大規模なプロジェクト「プロジェクト・アリストテレス」でも、効果的なチームの最重要因子は「心理的安全性」であるとされました。
この心理的安全性を土台から支えるのが、形式ばらない雑談なのです。無意識に表情や声のトーンを確認し合い、互いの“安全地帯”を広げていく。その積み重ねが、チーム全体の心理的結束力を高める結果につながります。

雑談が共感脳を活性化させる

人間の脳には、相手の感情や行動を“自分ごと”として捉える「ミラーニューロン」と呼ばれる神経細胞群が存在します。雑談は、このミラーニューロンを活性化させる格好の材料です。

たとえば、「うちの猫が最近言うこと聞かなくて…」という話に対して、「うちもそうなんです!」と共感が生まれる。その瞬間、脳内ではオキシトシン(愛着ホルモン)やドーパミン(快感ホルモン)が分泌され、互いの心理的距離がぐっと縮まるのです。

このプロセスは、心理的報酬のひとつとして認識され、チーム内での関係維持や協力行動の動機付けにもつながっていきます。

雑談の減少がもたらす副作用

リモートワークや効率重視の職場では、雑談が「生産性を下げる無駄な行為」として軽視される傾向があります。しかし、それによって以下のような副作用が生まれている可能性があります。

  • 感情の機微を把握できず、無意識のストレスが蓄積する
  • 「気軽に話せる」雰囲気が失われ、相談・報告が減る
  • チーム全体に孤立感や疎外感が蔓延する

特に感情労働が多い職場や、多様なバックグラウンドのメンバーが集う組織では、雑談の有無が心理的結束力の明暗を分けると言っても過言ではありません。

チームに雑談を取り戻すための設計

では、忙しい現場において、雑談の時間をどう確保していけばよいのでしょうか。いくつかのヒントをご紹介します。

1. 雑談の“場”を明示的に設ける
たとえば、オンライン会議の冒頭5分を“雑談タイム”として設定する、チャットツールに雑談専用のスレッドを作るなど、「話していい時間・空間」があるだけで心理的ハードルはぐっと下がります。

2. リーダーが率先して雑談する
雑談は「していいもの」という許可が必要です。上司やリーダーが「最近どう?」と気さくに話しかけることで、安心して雑談できる文化が育ちます。

3. “感情の言語化”を促す
「大変だったね」「楽しそうだね」といった感情への応答があると、相手は「自分を見てくれている」と感じ、雑談が“生きた対話”に変わっていきます。

雑談はチームの“感情筋トレ”

雑談は、決して“サボり”ではありません。チームの感情的つながりを強化し、心理的結束力を高めるための“感情筋トレ”です。
変化の激しい今の時代、どれだけスキルや知識があっても、それだけでは人と人はつながれません。結びつきを支えるのは、雑談を通して培われる“感情の橋”です。


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組織の心理的結束を強める一歩として、「雑談の力」、今一度見直してみませんか?

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