はじめに
組織において「心理的安全性」が重要だという認識は、もはや一般的になりました。
しかし、実際の職場で心理的安全性が十分に確保されているかというと、まだまだ道半ばの企業も少なくありません。多くの場合、その役割は現場のマネージャーに委ねられがちですが、組織全体としての“インフラ”が整っていなければ、現場だけで心理的安全性を維持するのは困難です。
この記事では、心理学の視点から、人事部門が果たすべき「心理的安全性のインフラ整備」について解説します。
なぜ心理的安全性は「整備」しなければ機能しないのか?
心理的安全性とは、
- 発言しても否定・攻撃されない
- ミスや課題を素直に共有できる
- 自分らしさを出しても受け入れられる
という感覚のことを指します。
これは自然発生的に生まれるものではありません。組織構造、制度、日々のコミュニケーション、評価のあり方など、さまざまな仕組みが支えて初めて持続可能なものとなります。
心理学では、環境が人間行動に与える影響(環境要因説)が強調されています。つまり、個々の努力だけでなく、組織全体で「安全な環境」を設計しなければならないのです。
心理的リスクを見落としがちなポイント
1. 成果偏重型評価制度
短期成果だけを重視する評価制度は、「失敗を恐れて挑戦しない」文化を育てます。心理的安全性は徐々に損なわれていきます。
2. 上意下達型のコミュニケーション設計
一方向の指示命令型コミュニケーションは、部下の自律性や発言意欲を低下させます。
3. ハラスメント対策の“見せかけ”化
ハラスメント研修を形式的に実施するだけで、実際の現場に「指摘しにくい空気」が残っていると、逆に心理的リスクを高めます。
4. メンタルヘルスケアを個人責任に押し付ける
セルフケアだけを推奨し、組織側のサポート体制が薄い場合、社員は孤立感を深めます。
人事が担うべき“心理的安全性インフラ整備”の具体策
1. 安全な発言機会のデザイン
- 1on1ミーティングの定期実施
- 匿名フィードバックシステムの導入
- 意見交換のためのカジュアルミーティングの促進
形式だけでなく、「発言しても評価に悪影響はない」というメッセージを繰り返し伝えることが重要です。
2. 評価制度の再設計
- プロセス(行動・挑戦)も評価対象に含める
- チーム貢献度やサポート行動を可視化・評価する
これにより、「失敗を恐れず動くこと」が促進されます。
3. ハラスメント防止を“対話文化”に変換する
単なる禁止だけでなく、
- 日常のフィードバック方法をトレーニングする
- 「違和感を伝える技術」を教える
など、対話を通じた問題解決文化を育てることが求められます。
4. メンタルヘルス支援を組織的に位置づける
- 産業カウンセラー、外部カウンセリングサービスの導入
- ストレスチェック後の職場環境改善プログラムの実施
- メンタル不調への「早期発見・早期対応」体制づくり
こうした施策が、社員の安心感を底支えします。
インフラ整備を加速するために押さえたい心理学的視点
1. 自己開示と信頼関係
リーダー自身が弱みや失敗経験を開示することで、部下の心理的安全性は高まります(自己開示理論)。
2. 帰属意識と組織コミットメント
心理的安全性が高まると、組織への愛着(組織コミットメント)が向上し、離職防止にもつながります。
3. ストレスモデルの理解
仕事上の要求が高くても、裁量があり、サポートがある場合、ストレスは「チャレンジ」として前向きに捉えられます(デマンド・コントロール・サポートモデル)。
おわりに:人事が未来を変える
心理的安全性は「現場任せ」にしては築けません。
人事が組織設計・制度・文化に働きかけることで、はじめて持続可能な「安全な土壌」が育ちます。
心理学の知見を取り入れながら、社員が本音を語り、挑戦し、成長できる組織づくりに、人事が中心となって挑んでいきましょう。
ラポトークのご紹介
ラポトークは、心理学を基盤とした対話型組織開発サービスです。
- 心理的安全性向上支援プログラム
- リーダー向け対話促進トレーニング
- メンタルヘルスと組織開発を融合したコンサルティング
を通じて、持続可能な組織づくりを支援しています。

