はじめに
医療や福祉の現場で働く人たちは、日々誰かを支える仕事に従事しています。患者や利用者に寄り添い、支援し続けるその仕事は、社会にとって欠かせない尊いものです。
しかし、「支える側」自身が疲弊し、燃え尽きてしまう現実もまた、深刻な問題として存在します。
この記事では、心理学の視点からケア職における燃え尽き(バーンアウト)のメカニズムを解説し、現場でできるセルフケアと支援のヒントをお伝えします。
なぜ“支える人”は燃え尽きやすいのか?
心理学的には、ケア職における燃え尽きは「情緒的消耗(Emotional Exhaustion)」に起因すると考えられています(マスラックのバーンアウト理論)。
主な要因は以下の通りです。
- 感情労働の連続:常に共感し、寄り添い続ける必要がある
- 成果の見えづらさ:努力が必ずしも報われた実感を得にくい
- 助けられない無力感:全ての課題に対処できないジレンマ
- 慢性的な人手不足と過重労働
これらが積み重なると、やがて「自分はもう無理だ」「何もできない」という無力感に襲われ、心身ともに消耗していくのです。
燃え尽きのサインを早期に察知する
燃え尽きは、いきなり訪れるわけではありません。
以下のようなサインが現れたら、注意が必要です。
- 仕事に対するモチベーション低下
- 些細なことでイライラする、感情的になる
- 疲れが取れない、朝起きるのがつらい
- 患者や利用者への共感が持てなくなってきた
- 「もうどうでもいい」という投げやりな気持ち
これらは、心が限界に近づいているサインです。放置せず、早めに対処することが重要です。
“支える人”を支える心理学的アプローチ
1. 感情を抑え込まず、言語化する
感情を抑え込むことは一時的には役立ちますが、長期的にはストレスを蓄積させます。心理学では「情動表出の重要性」が指摘されており、
- 辛かったこと
- 嬉しかったこと
- 疲れているという実感
などを、安心できる場で言葉にすることが心の健康を保つ助けになります。
2. 自己効力感を育む
自己効力感(Banduraの理論)とは、「自分はできる」という感覚のこと。
- 小さな成功体験を積み重ねる
- 自分がどれだけ価値ある支援をしてきたかを振り返る
- 仲間同士で「ありがとう」「助かった」と声を掛け合う
ことで、自己効力感を回復・維持することができます。
3. 境界線(バウンダリー)を意識する
患者や利用者に深く共感することは大切ですが、「すべてを背負い込まない」ことも必要です。
- 自分の責任と相手の課題を区別する
- オフの時間をしっかり確保する
- 自分自身をケアすることもプロフェッショナルの一部だと認識する
これらが、燃え尽きを防ぐための重要な考え方になります。
4. チームで支え合う文化を作る
一人で抱え込まず、チームで支え合う文化づくりが欠かせません。
- 日常的に労いや感謝を伝える
- 感情を吐き出せるミーティングを設ける
- お互いのコンディションに気を配る
こうした取り組みが、組織全体のレジリエンス(回復力)を高めます。
リーダー層に求められるサポート姿勢
リーダーや管理職には、
- メンバーの小さな変化に気づく感受性
- 話を聴く力(傾聴)
- 無理な働き方を是正する勇気
が求められます。
特に、心理的安全性を確保するためには、リーダー自身が「弱音を吐いてもいい」空気を作ることが重要です。
おわりに:支える人を、支える社会へ
誰かを支える仕事は、社会のインフラです。しかし、その土台を支えているのは、現場で働く一人ひとりの心と身体です。
燃え尽きを防ぐために、支える側もまた「支えられる」存在であるべきです。
心理学の知見を取り入れながら、ケアする人自身が健康で、やりがいを持って働き続けられる環境を、一緒に育んでいきましょう。
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