「チームの結束力を高めるために、週末にBBQをやろう」 「ゲーム形式の研修で、コミュニケーションを活性化しよう」
多くの企業がチームビルディングに予算と時間を投じています。しかし、その効果は月曜日には消え失せています。 なぜなら、これらは「一時的な興奮(イベント)」に過ぎず、組織の「構造的な欠陥」を治すものではないからです。
アルフレッド・アドラーは言いました。 「人間のすべての悩みは対人関係の悩みである。そして、すべての幸福もまた対人関係から生まれる」
組織が機能不全に陥るのは、そこに所属するメンバーの「共同体感覚(Community Feeling)」が低いからです。 これは「みんなで仲良くする」といった生ぬるい道徳ではありません。 個々人が自律し、相互に信頼し、貢献し合うための「厳格な心理的インフラ」です。
本記事では、アドラー心理学をベースに、イベント頼みのチームビルディングを卒業し、勝手に成果が出る組織OSのインストール方法を解説します。
第1章:「仲良しクラブ」と「共同体」の決定的な違い
まず、誤解を解かなければなりません。 共同体感覚とは、「同調圧力(空気を読むこと)」ではありません。
- 偽のチーム(仲良しクラブ):
- 嫌われないことが目的。
- 対立を避けるため、本音を隠す。
- リーダーの顔色を伺う。
- 真のチーム(共同体感覚がある):
- 成果を出すことが目的。
- 目的のために、健全な対立(議論)を恐れない。
- リーダーに対しても対等に意見する。
目指すべきは後者です。 「ここにいてもいい」という安心感を持ちながら、同時に「自分は自分のままで価値がある」と確信できている状態。 これを作るには、以下の3つの心理的要素を満たす必要があります。
第2章:共同体感覚を構成する「3つの柱」
アドラー心理学では、共同体感覚を以下の3要素で定義しています。これらが揃った時、チームは爆発的なシナジーを生み出します。
1. 自己受容(Self-Acceptance):私はOKだ
「ありのままの自分を受け入れる」こと。 これは「諦め」ではなく、「自分の『交換不能な部分』を受け入れ、その上で『交換可能な部分(行動)』を改善する勇気」を持つことです。 これが欠けていると、メンバーは過剰に防御的になり、ミスを隠蔽したり、他者を攻撃して自分を守ろうとします。
2. 他者信頼(Confidence in Others):君は仲間だ
「他者は私の敵ではなく、仲間である」と信じること。 条件付きの信用(担保があるから貸す)ではなく、無条件の信頼(裏切られる可能性があっても信じる)です。 上司が部下をマイクロマネジメントするのは、この「他者信頼」が欠如している証拠です。
3. 他者貢献(Contribution to Others):私は役に立つ
「自分は誰かの役に立っている」という主観的な感覚。 これこそが、仕事のモチベーションの源泉です。 人は「してもらう」ことでは幸福になれません。「してあげる」ことでのみ、自らの価値を実感(所属感の獲得)できる生き物だからです。
第3章:マネージャーがやるべき「介入」と「廃止」
では、この3要素をどうやって高めるのか。 BBQをする暇があったら、日々のマネジメントを変えてください。
「褒める」をやめて「感謝」する
アドラー心理学では「褒めること」を禁止しています。 「よくやった」「偉いぞ」という言葉は、「能力のある人が、能力のない人を評価する(縦の関係)」言葉だからです。これは依存を生みます。
代わりに「横の関係」に基づく言葉を使ってください。 それは「ありがとう」「助かったよ」という感謝です。 「ありがとう」と言われた時、人は「自分は貢献できた」と感じ、自ら「他者貢献」のスイッチを押すことができます。
「普通であること」の勇気を与える
多くの組織では「成果を出した人(Special)」だけが称賛されます。 しかし、これでは「成果を出せない自分には価値がない」という自己否定を生みます。
チームビルディングで重要なのは、「行為(Doing)」ではなく「存在(Being)」を承認することです。 「今日も来てくれてありがとう」 「あなたがいてくれて助かる」 特別な成果を出していない日でも、そこにいること自体を肯定する。それが「自己受容」の土壌を作ります。
第4章:全員に「居場所(スポットライト)」を作る
「他者貢献」を感じさせる最強の方法は、役割(Role)の付与です。 ただし、「営業」「開発」といった職務上の役割だけでは不十分です。
「シャドウ・ワーク」に光を当てる
組織には、光の当たらない仕事が無数にあります。
- 会議の準備をしてくれる人。
- トラブル対応で奔走した人。
- 落ち込んでいる同僚を励ました人。
リーダーの仕事は、これらの「見えない貢献」を見つけ出し、チームの前で言語化することです。 「Aさんが資料を整理してくれたおかげで、会議がスムーズだったね。ありがとう」
「あ、これでも役に立っているんだ」 そう感じた瞬間、そのメンバーにとって、そのチームは「他者(敵)」の集まりから「共同体(仲間)」へと変わります。
結論:機能する組織は「ありがとう」で回っている
「共同体感覚」を活用したチームビルディングとは、高額な研修講師を呼ぶことではありません。 リーダーであるあなたが、今日から以下のループを回し始めることです。
- 部下を無条件に信じて任せる(他者信頼)。
- 部下の小さな貢献を見逃さず、「ありがとう」と伝える(他者貢献感の付与)。
- 部下が「自分はここにいていいんだ」と自信を持つ(自己受容)。
このサイクルが回り始めた時、チームは管理されなくても自律的に動き出し、困難な課題にも協力して立ち向かうようになります。
飲み会の予約をする前に、まずは部下の目を見て「君がいてくれて助かる」と伝えてください。 その一言が、どんな高価な研修よりも、強いチームを作る第一歩になります。

