はじめに
多くの組織において、“部長”というポジションは、経営陣と現場の橋渡し役を担います。経営の意図を現場に浸透させ、現場の声を上に上げる。この「双方向のつながり」がうまくいくかどうかは、組織全体の動き方に大きく影響します。
しかし、実際には「部長の言葉が現場に響かない」「現場から本音が上がってこない」「役員と現場、両方に板挟みになって動きづらい」といった悩みが多く聞かれます。
このような“階層の壁”を超えるために必要なのが、「信頼構築を軸にしたコミュニケーション力」です。この記事では、心理学の視点から部長層が持つべき信頼構築のスキルと、実践的なコミュニケーションのあり方について紹介します。
なぜ部長層が“信頼の媒介者”になる必要があるのか
部長層は、組織の中で“中核”に位置する存在です。現場より経営の視座に近く、経営より現場のリアルに近い。この中間地点にいることで、上下の視点や価値観の“翻訳者”になることが求められます。
しかし、どちらの立場にも近づきすぎると、もう一方との距離が広がるというジレンマもあります。その中で重要になるのが、「上にも下にも、信頼をベースにした関係性を築く」という力です。
信頼があれば、現場からの“本音”や“違和感”が部長に伝わります。そして、その声を上層に届けるときも、経営からの指示を現場に伝えるときも、「この人が言うなら納得できる」と受け取られやすくなります。
信頼は、情報の質とスピード、さらには組織全体のエンゲージメントを高める“媒介力”なのです。
信頼構築に必要な3つの心理的要素
心理学者スティーブン・コヴィーは、信頼を「能力」「誠実さ」「関係性の一貫性」の掛け合わせだと定義しています。部長層が意識すべき信頼の要素を3つに分けて考えてみましょう。
一つ目は「一貫性」。言うこととやることが一致している、約束を守る、言葉に責任を持つ。この積み重ねが「この人は信じられる」という土台になります。
二つ目は「共感力」。相手の立場に立って物事を捉える力です。現場のリアリティに寄り添うこと、部下の小さな悩みに耳を傾ける姿勢が、距離を縮める第一歩となります。
三つ目は「自己開示」。完璧な上司よりも、人間味のある上司の方が親近感を抱かれやすいという心理学の研究もあります。自分の考え、悩み、過去の失敗などを適切にシェアすることで、相手も安心して本音を話すようになります。
階層を越えた“信頼のコミュニケーション”実践ポイント
まず大切なのは、「質問」の質を変えることです。業務報告的な質問(何が終わったか)ではなく、内面やプロセスに関わる問い(どう感じたか、なぜそうしたか)を増やすことで、対話の深さが変わります。
次に「沈黙の意味を読み取る」力。意見が出ないときに「反対がないからOK」ではなく、「言いづらいのかもしれない」と捉える感性が必要です。心理的安全性の高いチームでは、“沈黙が続く理由”を丁寧に観察し、対話の仕掛けを作っています。
さらに、「小さな承認」の積み重ねが重要です。成果だけでなく、努力や工夫、気づきに対して「それ、よく見てたね」「ありがたい気配りだね」と伝えることが、日々の信頼構築につながります。
経営陣と現場の“言語の違い”を翻訳する
経営層は未来・数字・戦略で語り、現場は今・感情・具体で語る。この“言語の違い”を理解し、橋渡しするのも部長の大きな役割です。
心理学的には、「抽象⇔具体」「論理⇔感情」の両方に対応する“メタ認知力”が、階層間コミュニケーションには不可欠です。
例えば、経営会議で語られる「組織改革」「生産性向上」を、現場にどう伝えるか。
「つまり、こういう働き方に変えていきたいんだよね」「みんながもっと提案しやすくなるような職場にしたいんだよね」と、自分の言葉で噛み砕いて共有する力が求められます。
この「翻訳スキル」こそ、組織をつなぐ部長層のリーダーシップの中核です。
おわりに:信頼は“技術”である
信頼は感覚ではなく、積み重ねによってつくられるもの。そして、それをつくるためのコミュニケーションには、心理学的な技術が必要です。
部長という立場は、板挟みに見える一方で、組織の流れを変えられる“要”でもあります。だからこそ、関係性の質にこだわるリーダーシップを持つことが、組織変革の第一歩になるのです。
ラポトークのご紹介
ラポトークでは、心理学を基盤とした対話支援・組織開発プログラムを通じて、部長層・マネージャー層に求められる“信頼構築コミュニケーション”の力を育てています。
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