はじめに

「どう思う?」と聞いても、何も返ってこない。
「困っていることがあれば言ってね」と伝えても、頷くだけ。
そんな“沈黙の部下”に、どう関わればよいのか悩む上司は少なくありません。

この沈黙は、「意見がない」わけでも、「話す価値がない」と感じているわけでもない場合が多く、心理的な背景が隠れていることが多いのです。

本記事では、ビジネス現場で上司が「沈黙」の背後にあるサインをどう読み解き、どう聴くかを心理学の視点から紐解いていきます。

沈黙の裏にある“3つの心理状態”

沈黙を一律に「話す気がない」と解釈するのは早計です。臨床心理学の知見を踏まえると、沈黙の背景には主に以下のような心理状態が隠れていることがあります。

1. 安全ではないと感じている

人は「この場で何を話しても大丈夫」と感じたときに、初めて言葉を発します。
心理的安全性が確保されていない職場では、沈黙は「自分を守るための行動」になります。

特に評価者である上司の前では、「変なことを言って評価を下げられたくない」「本音を話してもムダだ」と感じると、発言を控えるようになります。

2. 内省の途中にいる

沈黙は必ずしも「無関心」ではありません。考えを整理していたり、どう伝えるかを模索していたりする“内省の時間”である可能性もあります。

このとき上司が急かしてしまうと、部下は「考える余地も与えてもらえない」と感じ、以後発言を控えるようになります。

3. 感情が処理されていない

何かショックな出来事があった直後や、強い感情を抱えているとき、人は言語化が難しくなります。
こうした場合、沈黙は「言葉にならない感情の表現」として現れます。

このような沈黙を上司が正しく読み解けずにスルーしてしまうと、関係性の修復がますます難しくなることもあります。

リスニングとは「耳」ではなく「態度」

では、こうした沈黙とどう向き合えばよいのでしょうか。
鍵になるのは「リスニング(傾聴)」のあり方です。

多くの人は、リスニングを「よく耳を傾けること」と捉えていますが、心理的な傾聴とは「相手の存在そのものを尊重し、受け止める態度」を意味します。

「話したくなる空気」を作るために必要なのは、質問のテクニックではなく、“聴く姿勢”です。
言葉が出てこない沈黙の時間を、安心して共有できる関係性があってこそ、本音は少しずつ開かれていきます。

沈黙を活かす「リスニング術」5つの実践ポイント

心理学の現場で培われてきた傾聴の技術は、マネジメントにも応用できます。
ここでは、沈黙を読み解くための5つの具体的なポイントを紹介します。

1. 沈黙を「切らない」

多くの上司がやってしまいがちなのが、部下が話し出す前にこちらから話題を変えてしまうことです。
沈黙が生まれたときは、10秒、20秒とあえて待つ。
人は自分のペースで言葉を探していることを尊重されると、「聴いてもらえる」という感覚を持てるようになります。

2. 非言語を読み取る

話していなくても、部下の表情、姿勢、視線の動きには多くの情報が含まれています。
俯いている、手を落ち着きなく動かしている、浅く呼吸している。
こうしたサインを「メッセージ」と捉える感度が、リスニングの深さを左右します。

3. 感情を代弁する

部下がうまく言葉にできないでいるとき、「今は、少し戸惑ってるように見えるけど、大丈夫かな?」と気持ちを言葉にしてあげることで、安心感が生まれます。

心理学では「ミラーリング」と呼ばれるこの技法は、相手の内面を言葉にすることで、心の中にあるものを取り出しやすくします。

4. 「沈黙してくれてありがとう」という気持ちで受け止める

言葉にならないことも、関係性を築く大事なメッセージです。
「黙っていること」にも意味があると捉え、それを「拒絶」と誤解せず、尊重する姿勢を持つことが、信頼関係の第一歩になります。

5. その場で答えを求めない

上司がすぐに結論や対応策を求めすぎると、部下は本音を引っ込めます。
「今日、答えを出さなくてもいいから、ゆっくり考えてみて」と余白を与えることも、大きなリスニングの一部です。

沈黙を大切にすることで、組織の質が変わる

沈黙が生まれるチームは、決して悪い組織ではありません。
むしろ、「その沈黙にどう向き合うか」にこそ、リーダーの本質が現れます。

短期的なアウトプットや発言量だけに目を向けるのではなく、
沈黙のなかにある“語られなかった情報”に気づき、それに寄り添えるかどうか。

それは、個々人のエンゲージメントだけでなく、チーム全体の信頼感や創造性に直結します。

声にならない声を聴く力。
それが、これからのリーダーに求められる本質的なスキルなのです。


ラポトークは、臨床心理学をベースにした組織開発サービスとして、リーダーの“聴く力”や“感情の扱い方”を磨く1on1設計・研修を提供しています。
職場の心理的安全性を高めたい方は、ぜひ以下のリンクをご覧ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です