はじめに
会議が終わったあと、ふと胸に残るモヤモヤ。
議論には表面上の問題はなかったはずなのに、「何かおかしい」「でも、それが何かは説明できない」。
そういった「言葉にならない違和感」は、実はチームの健全性や、個人の心のサインに深く関わっています。
本記事では、こうした違和感を丁寧にすくい上げ、チームで共有し、組織をより柔軟で安全な場に変えていくための心理学的な視点と方法について考えていきます。
違和感は「心のセンサー」の警告
心理学では、違和感のような言語化できない感情や感覚を「前言語的感覚(preverbal feeling)」と呼ぶことがあります。
これは、言語化される前の直感的な感覚であり、無意識の領域で蓄積された記憶や経験に基づいて湧き上がってくるものです。
たとえば、「相手の言っていることは正しいはずなのに、納得できない」「チームの雰囲気が微妙に変わった気がする」といった感覚は、論理ではなく情動に近い脳の部位、扁桃体や島皮質が反応している状態といえます。
この“心のセンサー”を無視し続けると、自分でも気づかないうちにストレスが蓄積され、ある日突然の燃え尽きや離職へとつながることもあるのです。
「違和感が言語化されないチーム」が抱える危うさ
違和感を口に出せない環境では、チームの中に“静かな諦め”が広がります。
上司の判断に納得できなくても黙って従う。誰かの態度に傷ついても「こんなもんだ」と我慢する。
そのような空気が蔓延すると、徐々に思考停止や感情の麻痺が起こり、心理的安全性は失われていきます。
特にリモートワークが普及している昨今では、顔色や小さな変化に気づきにくく、違和感がスルーされやすい傾向にあります。
「何かがおかしい」と誰かが感じたときに、それを拾える仕組みや風土がなければ、チームの健全な成長は止まってしまうのです。
「違和感」を言語化するための3つのステップ
違和感を共有するには、以下のようなステップが有効です。
1. 感情をキャッチする「間」をつくる
まず必要なのは、“内側の声”に耳を澄ませる余白です。
常に業務に追われていると、自分が何を感じているかに気づく時間すらありません。
1on1や定例会の冒頭などに、「最近、なんとなく引っかかったことあった?」という問いを設けるだけでも、チーム内に「感情に触れてもいい」文化が育ちます。
これは臨床心理の現場でも使われる「自由連想法」のような効果を持ち、思考の枠を外し、本音に近づく手助けをします。
2. 「評価」ではなく「描写」で語る
違和感を共有する際には、「あのやり方は間違ってる」といった評価ではなく、「あの会議の雰囲気で、ちょっと緊張感を感じた」など、できるだけ主観に基づく描写で話すことが重要です。
これは、心理学でいう「Iメッセージ」の考え方に近く、相手を責めるのではなく、自分の感じた事実を伝える手法です。
「こう感じた」ことを表明するだけでも、相手には新たな視点として届き、チームに多様な視野をもたらします。
3. 「違和感共有会議」のような場を設ける
実際の企業事例では、「建設的違和感を出し合う場」として、週1回の雑談会や、プロジェクト後の振り返り会議に「感情の棚卸し」時間を設けているチームもあります。
心理的なブレーキがかからないよう、「違和感を言った人がえらい」「否定や正解探しは禁止」などのルールを決めておくと、より安全な対話が可能になります。
チームが違和感を共有できると何が変わるのか
違和感を安心して共有できるチームは、変化に強く、内省と学習のサイクルを回すことができます。
これは組織心理学でいう「適応的パフォーマンス(adaptive performance)」の向上にも直結します。
また、「自分の感覚が尊重される」という経験は、メンバー一人ひとりのエンゲージメントや貢献意欲にも大きな影響を与えます。
正しさよりも“感じたこと”が尊重される文化。そこには、本音が流通する健全な関係性が育ち、結果としてチーム全体の創造性や持続力が底上げされるのです。
違和感を大切にする文化が、組織の未来をつくる
言葉にできない違和感は、実は組織の成長に必要な“変化の種”です。
それを無視するのではなく、丁寧に拾い、言葉にし、互いに受け止め合うこと。
心理的に成熟した組織は、ロジックやKPIだけでは測れない“人間の奥行き”をマネジメントに取り入れています。
違和感を共有できるチームは、表面的な成功よりも、内面的な納得を重視する文化へと進化していくでしょう。
「ラポトーク」は、心理学の知見を活用し、組織における“対話の質”を高める研修・コンサルティングサービスです。
違和感を拾える1on1設計や、感情をチームに還元するための対話型研修を通じて、組織全体の心理的な成熟度を高めます。
