はじめに
組織運営において、業績や売上といった「数値」で測れる指標は管理しやすいものです。しかし、見過ごされがちなのが「組織の心の健康状態」。
心理的安全性、エンゲージメント、ストレスレベル——こうした目に見えにくい指標こそが、実は組織の持続的成長に深く関わっています。
この記事では、心理学の視点から「組織の心の健康」をどのように見える化し、経営層がどのように活かしていくべきかを解説します。
なぜ“心の健康状態”を見える化する必要があるのか?
組織心理学では、「健康な組織」は次の特徴を持つとされています。
- 意見が自由に言える(心理的安全性)
- チャレンジする意欲が高い(エンゲージメント)
- ストレスが適切に管理されている(ウェルビーイング)
これらが損なわれると、
- 離職率の上昇
- イノベーションの停滞
- メンタルヘルス不調者の増加
といった形で、最終的には業績に悪影響が出てしまいます。
しかし、これらのリスクは数値だけでは察知しづらく、「気づいたときには手遅れ」ということも珍しくありません。だからこそ、心の健康を定期的に、かつ客観的に可視化することが求められるのです。
組織の心の健康状態を見える化する方法
1. 心理的安全性サーベイの導入
心理的安全性は、チームのパフォーマンスと強い相関があることが研究から明らかになっています(エドモンドソン, 1999)。
以下のような簡単なサーベイ項目を定期的に測定することで、組織の「対話のしやすさ」「失敗に対する寛容度」などを数値化できます。
例:
- チーム内で意見を自由に言えると感じる
- ミスをしても責められる心配はない
2. ストレスチェックの活用と深掘り
日本ではストレスチェックが義務化されていますが、多くの企業では「実施しただけ」で終わっています。
- 高ストレス者割合だけでなく、ストレス要因(上司との関係、仕事量、裁量権)を分析する
- 部署単位で傾向を把握し、具体的な職場改善アクションに結びつける
ことが重要です。
3. エンゲージメントサーベイの活用
エンゲージメントとは、仕事への没頭感や意欲を指します。
- 仕事にやりがいを感じているか
- チームに貢献できている実感があるか
といった指標を定期的にチェックし、組織の活力状態をモニタリングしましょう。
4. 離職予備軍の兆候把握
- 突然の休暇取得増加
- 1on1での発言量減少
- 業務外活動(雑談、イベント参加)への関与低下
こうした微細な変化を現場から吸い上げる体制を整えることも、重要な「見える化」の一環です。
見える化した後、経営層が取るべきアクション
1. データを「現場批判」に使わない
データは、課題発見と改善のためのものであり、現場を責める材料にしてはいけません。
- まず事実を冷静に受け止める
- 組織全体の課題として捉える
このスタンスが、さらなる本音データの収集にもつながります。
2. 早期に小さな改善を実行する
- 1on1ミーティングの質向上
- フィードバック文化の醸成
- チームビルディング活動の導入
など、できるところからすぐに改善アクションを実施しましょう。小さな成功体験が、組織の変化への信頼を生み出します。
3. 心の健康を経営指標に位置づける
売上・利益・コスト管理だけでなく、
- 心理的安全性スコア
- エンゲージメントスコア
- ストレスチェック改善率
なども、定例経営会議でモニタリングし、改善PDCAを回すことが求められます。
心理学的視点で押さえておきたいポイント
1. 組織は「感情の場」である
人は理屈だけで動く存在ではありません。安心・信頼・尊重といった感情が、組織のエネルギーを左右します。
2. 見えない問題ほど、放置すると深刻化する
心理的な問題は、表面化したときにはすでに深刻です。小さなサインのうちに手を打つことが、最大のリスクヘッジになります。
3. 経営層の姿勢がすべてを決める
「心の健康を大事にする」というメッセージは、トップが本気で打ち出さなければ現場には届きません。
おわりに:組織の心を診る力を経営の武器に
これからの時代、組織の持続的成長には「心の健康経営」が不可欠です。
心理学の知見を取り入れながら、数値化と対話を通じて組織の心を可視化し、強くしなやかな組織づくりを進めていきましょう。
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