はじめに

「いつも笑顔でいよう」「部下の前では弱みを見せられない」「クレーム対応で感情を押し殺す」——そんな“感情のマネジメント”に、心あたりのあるビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。

とりわけ管理職の立場では、自分の感情だけでなく、部下の感情にも気を配ることが求められます。しかしその裏で、実は大きなストレスを抱えていることも少なくありません。

この“感情をコントロールし続ける”という仕事上の負荷は、「感情労働」と呼ばれ、近年、心理的健康に深く関わる要因として注目されています。

この記事では、感情労働の正体と、管理職が自身や部下を守るために知っておくべき心理学的なケアの方法を紹介します。

感情労働とは何か?

「感情労働(Emotional Labor)」とは、アメリカの社会学者アーリー・ラッセル・ホックシールドが提唱した概念です。

もともとは、航空会社の客室乗務員が「いつも笑顔でいなければならない」という感情の演技にストレスを感じていたことをきっかけに研究が進められました。

つまり、感情労働とは「業務上、感情を抑えたり、作ったりすることが求められる仕事上の負荷」のことを指します。

これは接客業や医療福祉職だけでなく、営業職や管理職、人事、教育者など、「人と関わる職種」すべてに当てはまります。特に管理職は、自分自身の感情だけでなく、部下の感情、クライアントの感情、チーム全体の空気に気を配る立場にあるため、感情労働の負荷が重なりやすいのです。

感情労働が引き起こす“見えない疲弊”

感情労働が続くと、以下のような心身のサインが現れやすくなります。

  • 疲れているのに眠れない、朝起きるのがつらい
  • 仕事中に「何も感じない」「笑顔がうまく作れない」
  • 些細なことでイライラする、人との接触を避けたくなる
  • 「自分らしさ」を感じられない、無力感に襲われる

心理学的には、こうした状態は「情緒的消耗(Emotional Exhaustion)」と呼ばれ、バーンアウト(燃え尽き症候群)につながるリスクがあります。

特に、責任感が強く、周囲に頼られる管理職ほど、自分の限界に気づかないまま抱え込んでしまうことが多いのです。

“感情労働”を軽減する心理学的ケアの方法

感情労働は避けることができないものですが、適切なセルフケアと組織的サポートによって負荷を軽減することができます。

第一に重要なのは「感情のラベリング」です。「イライラする」「悲しい」「不安」「疲れている」といった、自分の感情に“名前をつける”行為は、脳内の過活動を鎮め、自己理解を深める効果があります。

日記をつける、感情記録アプリを使う、信頼できる人と話すなど、日常的に感情を言語化する習慣を持つことが、心の安定につながります。

次に有効なのが「表出と調整のバランスをとること」です。

“常に笑顔でいなければ”と感情を押し殺すのではなく、「疲れてるかもしれないけど、今は一緒に乗り切ろう」といった、自分の状態を少し共有することで、過剰な演技をしなくて済むようになります。

心理的安全性のある職場では、こうした“等身大のコミュニケーション”が許容されやすく、感情労働の負荷を分散させる文化が自然と育ちます。

部下の“感情”に向き合うこともマネジメントの一部

感情労働は管理職だけの課題ではありません。むしろ現場に近い若手や中堅社員の中に、表面化しない感情の負荷が蓄積しているケースもあります。

だからこそ、日常的な対話の中で「最近どう?」と声をかけたり、「何か困っていることある?」と感情レベルでの確認をすることが、心理的サポートになります。

その際に大切なのは、「問題解決のアドバイスを急がないこと」です。部下が求めているのは、必ずしも正解ではなく、“わかってもらえる”という感覚です。

アクティブリスニング(積極的傾聴)や、感情の受け止めスキルは、マネジメントの基礎力としてますます重要になっています。

おわりに:感情に目を向けることが、職場の強さになる

感情労働は、「見えない仕事」のひとつです。しかしそれを軽んじず、向き合い、支え合える組織こそが、持続可能な強さを持つことができます。

管理職自身が自分の感情に正直であること、そして部下の感情を大切に扱うこと——その積み重ねが、心理的に安定した職場をつくり、エンゲージメントや成果にもつながっていくのです。

人を動かすのは、理論ではなく感情。だからこそ、感情に配慮できるマネジメントが、これからの時代のスタンダードになるでしょう。

ラポトークのご紹介

ラポトークでは、心理学の専門家が組織の対話や感情のマネジメントをサポートするプログラムを提供しています。

  • 感情マネジメント研修
  • 管理職向けセルフケア・1on1支援
  • 組織内の心理的安全性構築サポート など

「感情の扱い方」を学ぶことで、職場にやさしい力強さをもたらします。

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