はじめに

現場におけるマネジメントのあり方は、組織の風土や成果に大きく影響を及ぼします。その中でも近年、深刻な課題として浮かび上がってきているのが「無関心マネジメント」です。部下の感情や状況に無関心である、あるいは意図的に関与を避けるマネジメントスタイルは、一見トラブルを起こさず“放任主義”として成立しているように見えるかもしれません。しかし、その裏側には、組織全体を蝕む心理的リスクが潜んでいます。

無関心は“心理的排除”と同義である

心理学において「無関心」は、時に「拒絶」よりも深刻なダメージを人に与えることが知られています。人は本能的に、他者との関係性の中で自らの存在を確認し、価値を実感します。ところが、上司からの関心が著しく欠如している場合、部下は「自分はここにいても意味がないのではないか」「何をやっても評価されない」といった無力感を抱きやすくなります。

これは心理的に「存在の無視(social exclusion)」と呼ばれる状態であり、自己肯定感の低下やモチベーション喪失、さらには離職意向の高まりへとつながります。表面上は静かに見える組織が、実際には慢性的な疲弊状態にあるケースも少なくありません。

無関心マネジメントが引き起こす三つの弊害

第一に、無関心はフィードバックの機会を奪います。組織の成長には、成功も失敗も適切に振り返り、言語化し、行動に反映させることが不可欠です。しかし、上司からの関心が薄い職場では、こうしたプロセスが放棄され、学びの蓄積が停滞します。

第二に、チーム内の関係性が希薄になります。上司が部下に無関心である状態は、暗黙のうちに「人に関心を向けないことがこの組織の文化である」というメッセージを発します。結果として、チーム全体が「お互いに干渉しない」空気に包まれ、協力や支援を求めることが難しい風土となります。

第三に、問題の早期発見と対応が遅れます。部下が何らかの困難を抱えていても、上司がそれに気づかず、支援の手を差し伸べるタイミングを逃すことは、業務効率の低下やメンタルヘルスの悪化につながります。無関心は、放置によってリスクを増幅させる静かな要因なのです。

関心を「介入」ではなく「対話」で示す

では、無関心マネジメントから脱却するには、どうすれば良いのでしょうか。重要なのは、関心を「管理」や「監視」と混同しないことです。心理的に安全な職場をつくるには、部下をコントロールするのではなく、信頼を前提とした「対話」による関与が求められます。

たとえば、1on1ミーティングでは「最近どう?」という一言が、部下にとっては大きな安心材料になります。質問や傾聴を通じて、上司が本気で自分に関心をもってくれているという実感が、信頼関係を醸成します。ポイントは、部下の話を「正そうとする」のではなく、「理解しようとする」姿勢です。

マネジメントの再定義が必要な時代へ

組織におけるマネジメントとは、単に業務を割り振り、成果を管理することではありません。個々のメンバーが持つ感情や価値観に寄り添い、それぞれが力を発揮できる土壌をつくる「関係性のデザイン」そのものです。

特にリモートワークや多様な働き方が進む現代では、「黙っていても見てくれている」関係性は成立しにくくなっています。関係を“意図的に築く”努力が、かつて以上に求められているのです。

部下が「自分のことを知ろうとしてくれている」と感じるだけで、心理的な安全性は大きく高まります。そしてその安全性こそが、挑戦・提案・協働といった行動変容を生む鍵になります。

関心を“仕組み”として取り入れる

最後に、マネジメントにおける関心を「属人的なスキル」ではなく「仕組み」として整備することも重要です。例えば、定期的なフィードバックの場を制度化する、感情に関する対話を促進する研修を取り入れる、などの工夫が有効です。

ここで紹介した内容は、心理学的知見に基づいた組織開発・人材育成支援サービス「ラポトーク」や、匿名で安心して相談できるビジネスパーソン向けカウンセリングサービス「Hanasu ハナス」においても提供しています。

一人ひとりに寄り添い、組織に関心の連鎖を生み出すこと。そこから始まる変化が、静かに、しかし確実に、組織の活力を取り戻していきます。

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