はじめに
「自分で考えて動いてほしいのに、指示がないと何も進まない」 「ちょっと任せると、不安そうな顔で固まってしまう」
そんな“指示待ち”状態に悩む経営者や中小企業の管理職の声をよく耳にします。
しかし、それは本当に社員の“主体性がない”からでしょうか?
心理学の視点から見れば、その背景には組織内のコミュニケーション環境やマネジメントスタイルの問題が潜んでいることが多いのです。
この記事では、社員の自発性を引き出す「対話型マネジメント」の考え方と、すぐに使える実践的なコミュニケーション方法をご紹介します。
“指示待ち”は悪ではなく、“防衛的行動”の一種
心理学には「学習性無力感(Learned Helplessness)」という言葉があります。
これは「自分で何をやっても意味がない」「どうせ否定される」という経験が積み重なると、人は自発的な行動を控えるようになるという現象です。
つまり、過去に「自分の考えが受け入れられなかった」「勝手に動いて失敗して怒られた」などの体験があればあるほど、人は“考える前に待つ”という選択を取りやすくなるのです。
この傾向は特に中小企業で、経営者が強いリーダーシップを発揮している組織や、業務が属人的で“教える余裕がない”現場に起こりやすいとも言われています。
“命令型”マネジメントの限界
従来の「上司が指示を出し、部下がその通りに動く」というスタイルは、確かにスピード感があり、短期的には成果も出ます。
しかしその反面、社員が「自分で考える」機会が奪われやすくなり、以下のような問題を引き起こします:
- 自分から動かない(当事者意識がない)
- 指示が細かくないと不安になる
- 新しいことにチャレンジしなくなる
現場にこのような空気が広がってしまうと、イノベーションや業務改善の芽は自然と消えていきます。
対話型マネジメントとは?
対話型マネジメントとは、単に「話し合う」ことではなく、
- 相手の内面や考えを引き出し
- その言葉を受け止め
- 対等な関係性の中で方向性を見出していく
という“対話のプロセス”を重視したマネジメントスタイルです。
このスタイルの根底にあるのが、心理学でいう「自己決定理論(Self-Determination Theory)」です。
この理論によれば、人が主体的に行動するためには、
- 自律性(自分で選んでいるという感覚)
- 有能感(自分にはできるという感覚)
- 関係性(受け入れられているという感覚)
の3つが必要とされます。
対話型マネジメントは、これらを日常の関わりの中で満たすことを目的としています。
中小企業が対話型マネジメントを取り入れるメリット
1. 社員の“判断力”と“行動力”が育つ 対話を通じて「考える→言語化する→実行する」というサイクルが生まれ、自走できる社員が増えていきます。
2. 上司と部下の関係性がフラットに近づく 「一方的に指示される人」ではなく、「一緒に考える仲間」としての関係が築かれ、信頼感が高まります。
3. 現場に“気づき”が生まれ、改善提案が増える 安心して話せる環境では、社員から「もっとこうした方がいい」「これって意味あるの?」という前向きな声が出やすくなります。
今日からできる!対話型マネジメント3つの実践術
1. 質問は“答えを決めない”形で NG:「これ、こうやってやったんだよね?」(誘導質問) OK:「どうやって進めたの?」(オープンクエスチョン)
2. 相手の考えに“意味づけ”を加える 「それ、いいアイデアだね」だけでなく、 「その工夫って、〇〇の効率にもつながりそうだね」と伝えると、相手は「考える意味があった」と感じやすくなります。
3. 定期的な“1on1ミーティング”を設ける 業務報告だけでなく、 「最近うまくいったことは?」「困ってることある?」と、感情や気づきを引き出す時間を定期的につくることが、信頼の積み重ねになります。
おわりに:社員が育つのは、対話がある組織
「指示待ち社員」を変えたいなら、まずは“指示する側”の姿勢を見直すことが最初の一歩です。
社員が安心して考え、意見を出し、自ら動けるようになるには、日常の関わりの中に「問いかけ」と「受け止め」があることが必要不可欠です。
小さな会社だからこそできる、丁寧な関係づくりこそが、未来を動かす組織づくりのカギになるのです。
ラポトークのご紹介
心理学をベースにした組織開発・対話支援サービス『ラポトーク』では、心理的安全性のあるチームをつくるための各種プログラムを提供しています。
- 1on1の仕組みづくりと運用支援
- リーダー層への対話力・承認スキルのトレーニング
- 組織診断とフィードバック面談の設計 など
詳しくは公式サイトをご覧ください。

