はじめに:なぜ、私たちは感情を押し殺してしまうのか?
「本当は嫌なのに言えない」
「気づいたら我慢している」
「怒りも悲しみも湧くけれど、すぐに飲み込んでしまう」
こうした“感情の抑圧”は、性格の弱さではありません。
むしろ、**脳があなたを守るために選んだ“戦略”**です。
しかし長期化すると、
- いつも疲れている
- 感情がよく分からない
- 急に涙が止まらなくなる
- 人間関係がしんどくなる
といった“二次的な不調”につながっていきます。
この記事では、
感情を押し殺すクセがつく理由を、心理モデルと脳の働きから徹底解説します。
1. “情動抑圧”とは?心理学でいう「感情のフタ」現象
情動抑圧(Emotional Suppression)とは、
湧き上がる感情を感じる前に、意識的または無意識的に押し下げること
を指します。
ポイントは、
✔ 自覚していない場合が非常に多いこと
本人は「我慢している意識」がありません。
✔ 感情を抑えるのが“自動化”していること
脳がクセとして覚えてしまい、瞬間的に抑える。
✔ 長期的には精神的な消耗を引き起こすこと
抑圧された感情は脳内リソースを奪い続ける。
情動抑圧は一見「落ち着いた人」「聞き上手」に見えるため気づかれにくいのです。
2. 感情を押し殺すクセが形成される“4つの心理モデル”
① 【環境モデル】幼少期の“安全確保戦略”
感情抑圧は多くの場合、幼少期の環境で形成されます。
- 感情を出すと怒られた
- 親が不安定で、気を使う必要があった
- 「泣くな」「我慢しろ」と言われ続けた
- 家族の空気を読む必要があった
子どもにとってこれは“生き残り戦略”。
感情を出さない=安心が保たれる
という学習が脳に刻まれるのです。
② 【役割モデル】「いい子」「聞き役」の固定化
家庭・学校・職場で、
- まとめ役
- 聞き役
- 面倒を見てくれる人
- 波風立てない人
という役割を担うと、否応なく感情表現は削られます。
その結果、
役割を守るために自分の感情を捨てる
という構造が完成します。
③ 【社会モデル】日本社会の“感情抑制文化”
日本にはこうした価値観があります。
- 空気を読む
- 迷惑をかけない
- 自己主張より調和
- 本音は出さない
- 感情より冷静さが尊い
この文化に長くいると、
感情を出すこと=悪いこと
という錯覚が強化されます。
④ 【脳モデル】扁桃体の“反応抑制”回路が強化される
感情は扁桃体で発生しますが、
抑圧を繰り返すうちに前頭前皮質が扁桃体を“瞬時に抑え込む”ようになります。
つまり、
感情が生まれた瞬間に、自動で消える
という回路が脳内にできてしまうのです。
3. 感情を押し殺し続けると起こること
① エネルギー消費が増えて“疲れやすくなる”
感情を抑えるには大量の認知リソースが必要です。
- 頭だけ疲れる
- 休んでも回復しない
- 体が重い
- 気持ちが動かない
こうした“慢性疲労”の原因に。
② 感情が分からなくなる(情動鈍麻)
抑圧を続けると、
“感じる能力”自体が弱くなります。
- 何が好きかわからない
- 自分の気持ちが曖昧
- 感情の反応が薄い
これは怠けではなく、脳の防御の結果です。
③ 爆発する・突然涙が出る
抑圧された感情は消えず、蓄積します。
限界を超えると、
- 急に怒りが出る
- 些細なことで涙が出る
- スイッチが切れたように無気力になる
など“情動の漏れ出し”が起きます。
4. “感情を押し殺す”から抜け出すためのステップ
① 「感じない自分」を責めない
第一歩はこれです。
感情を抑える行動は、あなたが生き抜くために身につけた能力だった。
責めるのではなく、「ありがとう」と言って手放す姿勢が必要。
② 今の感情ではなく“体”の反応から気づく
感情は感じにくくても、体は正直です。
- 肩が硬い
- 呼吸が浅い
- 胃が重い
- 顔が強張る
→「何を感じてる?」と自分に問いかける
これだけで少しずつ開いていきます。
③ 感情を0〜10の“強さ”で測る
言葉にできなくても、
不快度:4
緊張:7
という数値化は可能。
脳は「言語化ではなく認識」が大事なので、これでも十分。
④ “微小な本音”を一行だけメモする
いきなり大きな本音は出ません。
- 実はちょっと…疲れた
- 少しだけ…嫌だった
- ほんの少し…気になった
このレベルでOKです。
⑤ 安心できる相手に“小さな本音”から出す
いきなり大きな自己開示は難しいので、
- 一言だけ
- 弱めの本音から
- 無理のない範囲で
が鉄則です。
まとめ:感情を押し殺すクセは“治せる”
情動抑圧は、
- 性格ではない
- 意志の弱さでもない
- 過去の自動化された心理戦略
です。
そして、今からでも必ず変えられます。
小さな感情の気づきから始めれば、
押し殺していた気持ちは少しずつ戻ってきます。
感情を感じられるようになると、人生は一気に生きやすくなる。
そのプロセスを、これからの記事でも丁寧にサポートしていきます。

