■ はじめに:なぜ「後からしんどくなる」のか?
仕事中は平気だったのに、帰宅した途端に急に落ち込む。
誰かの言葉をその場では流せたのに、家で思い出して苦しくなる。
こうした 「心が後から反応する現象」 を心理学では
情動処理の遅延(Delayed Emotional Processing) と呼びます。
現代人はこれが増えており、
「なんとなく疲れやすい」「メンタルが揺れやすい」
と感じる人の多くは、この状態に陥っています。
本記事ではそのメカニズムと、今日からできる対処を解説します。
■ 情動処理の遅延とは?
情動処理の遅延とは、
その場では処理しきれなかった感情が、後になって波のように押し寄せる現象
のことです。
● 具体的にはこんな状態
- その場では冷静 → 後で一人になったら落ち込む
- 怒りをスルーしたつもりが、数時間後にイライラ
- 「平気なふり」をしたら夜にどっと疲れる
- 仕事中は動けるのに、休みの日ほどしんどい
表面的には普通に行動できているので気づきにくいですが、
内側では 感情の未処理ファイル が溜まり続けています。
■ 心が追いつかなくなる原因は「脳の優先順位」
感情が遅れて出てくるのは、心が弱いからでも繊細だからでもありません。
原因は脳の処理容量が足りていないこと。
脳は優先順位をつけて処理を行っています。
● 優先されるのは「生存に必要な作業」
- 目の前の業務
- 会話
- 緊急対応
- 判断・決断
これらのタスクを処理している間、脳は、
感情処理を後回しにする
のです。
つまり「心が追いつかない」のは自然な現象なのです。
■ 情動処理が遅れる人ほど“頑張れるタイプ”
実は、情動処理が遅れやすいのは次のような人。
- 責任感が強い
- 真面目
- 場の空気を読める
- 仕事を途中で投げられない
- 対人ストレスに強く見える
これらは一見長所ですが、同時に…
その場で感情を止めてでも「やるべきこと」を優先できる人
でもあります。
その結果、
感情が後ろに追いやられ続け、後から津波のように来る
というわけです。
■ 感情が遅れてやってくると何が起きる?
① 謎の疲労感が続く
感情処理は体力(認知資源)を使うため、
後処理が重なるほど疲労感が蓄積します。
② メンタルの反応速度が落ちる
ストレスに対して脳が処理しきれず、
心の動きが鈍くなります。
③ 考えすぎ・反芻思考に陥る
処理できなかった感情を、脳は何度も再生して整理しようとします。
■ 今日からできる“情動処理を早める”3つの方法
① その場で「小さい気持ち」を言葉にする
感情は小さいうちに処理するのが一番楽。
誰かに話すことが難しければ、メモでOKです。
- 「今、ちょっと緊張した」
- 「なんかモヤっとしたな」
この“ラベル付け”が脳の情動処理を一気に進めます。
② 行動を止めて「10秒間だけ身体を感じる」
感情は身体で先に反応します。
身体を感じると“現場処理”が進みます。
やり方:
- 立ち止まる
- 顎・肩の力を抜く
- 胸・胃・喉のどこが反応しているか観察
10秒でOK。
脳の処理速度が上がり、後からしんどくなるのを防ぎます。
③ 一日の終わりに「感情の棚卸し」を1分で行う
寝る前に以下をサッと書くだけ。
- 今日疲れた瞬間
- 嫌だったこと
- 嬉しかったこと
ストレスを“その日のうちに精算”できるようになります。
■ まとめ:心が追いつかないのは「弱さではなく、構造」
情動処理の遅延は、
- 心が弱い
- メンタルが不安定
という話ではありません。
脳が「今やるべきこと」を優先しすぎているだけ。
それはむしろ、あなたが責任感の強い証拠です。
ただし放置すると、
心が疲れやすくなり、メンタル不調にもつながります。
あなたの心が今どんなペースで動いているのか、
ぜひ一度立ち止まって確かめてみてください。

