はじめに
医療・福祉・教育・ビジネスの世界など、多様な専門職が連携して成果を出す場面は増えています。しかし、「お互い何を考えているのか分からない」「言いたいことが伝わらない」「チームなのに一体感がない」といった“もやもや”を感じた経験を持つ人も多いのではないでしょうか。
多職種連携の壁は、単なる情報共有不足や役割理解の問題だけではありません。実は、そこには見落としがちな心理的リスクが潜んでいます。
この記事では、心理学の視点から多職種連携の“もやもや”を解きほぐし、現場で使える実践的なコミュニケーション術をお伝えします。
なぜ多職種連携は難しいのか?心理的メカニズム
1. 無意識のバイアス(ステレオタイプ)
社会心理学では、人は無意識のうちに「この職種の人はこうだろう」とステレオタイプを持つことが知られています。
- 医療現場なら「医師はリーダーシップ型」「看護師はサポート型」
- 福祉現場なら「介護士は現場中心」「相談員は理屈っぽい」
こうした無意識の期待が、コミュニケーションのズレを生む要因になります。
2. アイデンティティ防衛
自分の専門性や役割に誇りを持つことは重要ですが、それが強すぎると「自分たちのやり方が正しい」という心理的防衛反応を引き起こし、他職種への理解が進まなくなります。
3. 心理的安全性の欠如
エイミー・エドモンドソンの研究によれば、異なるバックグラウンドを持つメンバーが安心して発言できる環境(心理的安全性)がないと、意見が出づらくなり、連携が形骸化します。
4. 意図と受け取り方のズレ
発信者の意図と受信者の解釈にはズレが生まれやすいものです。特に専門用語や価値観が異なる場合、同じ言葉でも意味がズレて伝わり、“わかったつもり”が積み重なっていきます。
多職種連携をスムーズにする心理的コミュニケーション術
1. メタ認知を高める
メタ認知とは、「自分自身の考えや感情を客観的に捉える力」のこと。
- 「今、自分はこの人に対して偏見を持っていないか?」
- 「自分の伝え方が独りよがりになっていないか?」
と自問自答する習慣を持つことが、多職種連携には欠かせません。
2. 相手の“意味世界”を尊重する
各職種には、それぞれ固有の専門用語、価値観、優先順位があります。
「なぜこの人はこう考えるのか?」を理解しようとする努力——これが、連携の質を大きく左右します。
3. 具体的・簡潔な言葉を使う
専門用語や抽象的な表現は極力避け、誰にでも伝わる具体的な言葉で話すことが重要です。
たとえば、「リスクマネジメントが必要です」ではなく、「この作業でミスが起きたら利用者にどんな影響が出るかを一緒に確認しましょう」と伝える、といった具合です。
4. 違いを対立ではなく資源と捉える
異なる意見が出たときに、「どちらが正しいか」ではなく「この違いをどう活かせるか」を考える姿勢が、建設的な連携を生みます。
これは、ポジティブ心理学でも提唱されている「多様性の活用」につながる考え方です。
5. 小さな対話の積み重ねを大切にする
定例会議だけでなく、
- 雑談の中での情報共有
- ちょっとした疑問をその場で聞く
- 成果だけでなく、プロセスも共有する
といった「小さな対話」を積み重ねることで、心理的距離が縮まり、連携は自然と滑らかになっていきます。
リーダー層に求められる役割
- 異なる専門職同士を“つなぐ”意識を持つ
- 安心して本音を言える場をデザインする
- 連携における成功体験を可視化して称賛する
これらが、チーム全体の心理的安全性とエンゲージメントを高めるポイントになります。
おわりに:連携の質は、関係性の質で決まる
多職種連携の本質は、「お互いの違いを理解し、尊重し、活かす」ことにあります。
心理的バリアを乗り越え、対話と共感を積み重ねていく——その先に、真に機能する連携チームが育っていきます。
連携のテクニックだけでなく、関係性の土台づくりにこそ、これからの時代は力を注いでいきましょう。
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