はじめに
「共感できるリーダー」は、近年の組織において高く評価される資質の一つです。部下の気持ちを汲み取り、安心感を与え、心理的安全性の高い職場をつくる。しかし、それだけでチームは前進するのでしょうか。
実は、共感だけでは限界があります。組織の変革やチームの成長には、ただ寄り添うだけでなく、共に心を震わせる“共振力”が求められるのです。
共振とは何か:感情が連鎖する瞬間
「共振」とは、心理学的には“エモーショナル・コンタグオン(情動感染)”に近い概念です。ある人の感情やエネルギーが、周囲に波及し、他者の内面にも響いていく。これは単なる共感ではなく、他者の感情と自分の感情が同期し、相乗効果を生む状態です。
職場でいえば、リーダーの熱意がチーム全体に伝播し、自然と行動が活性化していく現象です。感情の質と強度が高いほど、この共振は起こりやすくなります。
「共感止まり」のリーダーが組織に与える影響
共感力のあるリーダーは、部下からの信頼を得やすく、対人関係において安定感をもたらします。しかし、過度な共感にとどまると、次のような副作用が生じることがあります。
・決断が先送りになる
・部下に遠慮して挑戦を避けてしまう
・感情に寄り添うあまり、パフォーマンスへの厳しさがなくなる
このような状態では、チームの成長が鈍化し、リーダー自身も葛藤を抱えやすくなります。「分かるよ」と言い続けるだけでは、組織は前に進めないのです。
共振力を育てる3つのポイント
- 自己感情への敏感さ
リーダーがまず磨くべきは、自己の感情への気づきです。自分が今、何を感じているのか、なぜその感情が生まれたのかを丁寧に観察する力が、他者との共振を可能にします。マインドフルネスやエモーショナル・ジャーナリング(感情の記録)が有効です。 - 感情と目的の接続
チームに熱を伝えるには、リーダー自身がその行動に意味を感じていることが前提です。「なぜ、これをするのか」という目的意識が、感情を駆動力に変えます。意味を言語化し、ストーリーとして伝えることが、共振の起点となります。 - リーダー自身の情熱の可視化
共振には「見える熱量」が不可欠です。表情、声のトーン、話し方、身振り手振りといった非言語的表現を通じて、リーダーの本気度を伝える必要があります。情熱を内に秘めるだけでは、共振は起こりません。
共振力が組織にもたらすもの
共振するリーダーは、組織にダイナミズムを生み出します。例えば、難易度の高いプロジェクトでも、「この人がそう言うならやってみよう」と人が動き出すのです。共振が生まれれば、意思決定のスピードが上がり、創造性も高まります。
また、リーダーが感情を通じてメッセージを発することで、形式的な指示では得られない“内発的動機づけ”がチームに浸透していきます。
心理的安全性との違い
共振力は、心理的安全性と矛盾しませんが、役割が異なります。
心理的安全性は、恐れや不安がない状態をつくること。共振力は、そこから一歩踏み出して「心を動かし、共に進む力」を生むことです。前者が“守り”だとすれば、後者は“攻め”の感情設計と言えるかもしれません。
最後に:感情を動かし、組織を動かす
これからのリーダーシップには、知識や経験だけでなく、「感情をデザインする力」が求められます。共感にとどまらず、共に震える共振を起こすことができるかどうか。そこに、組織の未来がかかっています。
リーダーの感情が、チームの感情をつくる。
そしてチームの感情が、行動を変え、結果を生み出す。
共振する職場づくりは、今ここから始めることができます。
ラポトークは、臨床心理学の専門性をもとに、組織と人の行動変容を促すコミュニケーションデザインサービスです。リーダーやマネージャーの感情マネジメント支援、1on1改善、チームの心理的安全性向上などに取り組んでいます。
