はじめに
職場でよく見かけるタイプに、「誰とでもうまく話せる」「感じがよい」「表面的な関係は円滑」なのに、なぜか周囲から本当には信頼されていない――そんな人がいます。
本人も、「あんなに気を遣っているのに、どうして自分は信用されないのだろう」と戸惑いを感じていることが多いのではないでしょうか。
実はこの現象、心理学の視点から見ると「好かれること」と「信頼されること」の違いを理解することで紐解けます。
この記事では、“人当たりはよいのに信用されない人”に共通する特徴と、そこに潜む心理メカニズム、そしてビジネスの現場で信頼を得るための実践ポイントを解説していきます。
「人当たりのよさ」と「信頼されること」の違い
まず大前提として、「人当たりのよさ=信頼」ではありません。
人当たりのよさとは、主に対人スキルの問題です。場を和ませる、相手に気を遣う、礼儀正しい、笑顔で接するなど、第一印象や短期的な関係構築には大きな影響を与えます。
一方、信頼は“長期的な関係性の蓄積”の中で築かれるものです。そこには「言動の一貫性」「誠実さ」「裏表のなさ」など、より深い人間性への評価が含まれます。
つまり、「人当たりがよい」は“感じがよい人”で終わる可能性があるのに対して、「信頼される人」は“任せたい・共に働きたいと思われる人”であるということです。
なぜ「人当たりがいいのに信頼されない人」が生まれるのか
心理学的に見ると、このギャップにはいくつかの原因があります。
1. 表層的な関係にとどまっている
人当たりが良い人ほど、衝突や深い議論を避ける傾向があります。
「相手を不快にさせないように」「波風を立てたくない」と考えるあまり、核心には触れないコミュニケーションになりがちです。
その結果、周囲から「本音で話せない」「何を考えているのか分からない」と感じられてしまい、信頼関係が深まりません。
2. 自己開示が少ない
心理学では「自己開示の法則」と呼ばれる概念があります。人は、自分のことを開いてくれる相手に対して、より心を開くという傾向があるのです。
人当たりがいい人のなかには、「自分のことは話さないが、相手には気を遣う」というスタイルの人も多くいます。しかし、それでは信頼関係は片道通行になり、やがて限界がきます。
3. 行動と発言に一貫性がない
例えば、「何でも言ってね」と口では言うのに、実際には小さなミスを強く責める、「チームで動こう」と言いながら、自分だけ成果をアピールする――こうした“言動のズレ”は無意識に相手の信頼を損ないます。
信頼は「この人は言っていることとやっていることが一致している」と感じられるときに育まれます。表面上の優しさよりも、一貫性のある行動が重要なのです。
信頼を得るために必要な心理的スキル
では、人当たりの良さを活かしながら、本当の意味で信頼されるにはどうすればよいのでしょうか。
1. 自分の弱さを適切に見せる
「信頼されたい」と思うと、つい完璧な自分を演じたくなるものです。しかし、心理的な親密さは、実は「弱さの共有」から生まれることが多いのです。
「実はこういうことが不安だった」「過去にこんな失敗をしたことがある」といった小さな自己開示が、相手の心を動かします。
人間らしさが見えることで、「この人と一緒にいても大丈夫」「自分も本音を言ってよい」と思えるのです。
2. 傾聴だけでなく、フィードバックもする
人当たりの良い人は、聞き役に回ることが多い傾向があります。しかし、信頼される人は「聞くだけ」ではなく「言うべきことをきちんと伝える」ことができる人です。
相手の考えを受け止めたうえで、「それはこう考えるともっと良くなると思う」と建設的なフィードバックを返すことで、関係性は対等で信頼に満ちたものになります。
3. 適切なタイミングで境界線を引く
なんでも「はい」と言ってしまう、どんな頼みも引き受けてしまう――それが「優しさ」だと誤解されがちですが、実は境界線のない人は信頼されにくいのです。
「ここからは受けられない」「今はできない」と明確に伝える力こそ、相手からの尊重と信頼につながります。
信頼とは、感情の蓄積である
心理学者エリック・エリクソンは、信頼を「他者との繰り返しの経験を通して形作られる感情的基盤」と定義しました。
信頼される人は、日々の小さなやりとりを通して、「この人は大丈夫」「一貫している」「私を大切にしてくれる」と感じさせています。
つまり、信頼はスキルではなく、関係性のなかで“にじみ出るもの”です。
それは、気の利いた言葉や笑顔よりも、「どんなときでも、あなたはあなたらしく誠実であるか」が問われているのです。
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