はじめに:なぜ、言いたいのに言えないのか?
「嫌われたくない」
「場を壊したくない」
「反論されたら怖い」
本音を飲み込んだ経験は、誰にでもあります。
これは 優しさ や 気遣い の問題だけではありません。
じつは “脳の防衛システム” が強く作動しているサインなのです。
本音を言う=リスク
沈黙する=安全
脳は、この構図を瞬時に判断し、「言わない方がいい」とあなたを守ろうとします。
では、脳の中では何が起きているのでしょうか?
1. 「本音を言えない脳」は“危険”を過大評価している
人が本音を言えなくなる場面では、脳の**扁桃体(へんとうたい)**が強く反応しています。
扁桃体は「危険を察知するセンサー」。
ちょっとした人の表情や声のトーンから、以下のような脅威を読み取ります。
- “否定されるかもしれない”
- “嫌われるかもしれない”
- “関係が壊れるかもしれない”
これらはすべて「実際の危険」ではなく 予測された危険 です。
ところが扁桃体は、
“予測であっても、現実と同じくらい危険”
と判断します。
その結果、
→ 本音を言う前に「やめておけ」と脳がブレーキをかける
という反応が自動的に起こります。
2. 脳は「安心」のために“同調”を選びがち
私たちの脳は、社会的な生き物として進化してきました。
そのため、**集団の中での安心(=拒絶されないこと)**は、生存に直結する重要な要素でした。
その名残として、脳には以下の傾向があります。
● 周囲と同調することで安心を得ようとする
● 衝突を避けることでストレスを最小限にしようとする
つまり本音を言わないのは、
脳があなたを“社会的に安全”な位置に保つための戦略なのです。
3. 過去の経験が「今の沈黙」を作っている
本音が言えない背景には、次のような過去経験が関係していることが多いです。
- 子どもの頃、意見を否定された
- 家庭環境で「空気を読む」役割だった
- 主張した時に怒られた
- 反論すると人間関係が悪くなった
これらの記憶は脳に“学習”として蓄積されます。
→ 「本音=トラブルになる」
→ 「言わない方が安全」
と無意識に判断する回路が強化されるのです。
そのため、本音を言おうとした瞬間、
- 恐怖
- 不安
- 身体のこわばり
- 口が重くなる感覚
これらは “昔の痛い記憶がよみがえっている反応” なのです。
4. 脳の誤作動を改善する3つのアプローチ
① 小さな「本音トレーニング」から始める
いきなり大事な場面で本音を言おうとすると、脳は全力で拒否します。
まずは小さな場面で練習を。
例)
- 飲み物の注文で「本当はこっちがいい」を言う
- 友人に小さな違和感を伝える
- 家族に「それは嫌だ」を一言だけ言う
脳は“成功体験”を少しずつ学習します。
② 「相手はどう反応するか?」ではなく「自分の価値」を基準にする
本音が言えない人は、
相手の反応>自分の感情
という評価軸になっています。
次の質問を自分に投げかけるだけで軸が整います。
- これは本当に自分が望むこと?
- これを言わないと、自分が苦しくならない?
自分基準の思考は、脳の不安回路を弱めます。
③ “安全な人間関係”で本音を積み重ねる
脳は「安全な場」だと判断したとき、初めて本音を解放します。
- 聞く姿勢がある人
- 否定や攻撃をしない人
- 自分を尊重してくれる人
こういう相手と本音を言う練習を積むと、脳の「安心回路」が強化されます。
結果として、安心の範囲が広がり、
“職場”“友人”“恋人”など、他の場でも自然に本音が言えるようになります。
まとめ:本音が言えないのは「弱さ」ではなく「脳の防衛プログラム」
あなたが本音を言えないのは、
- 気が弱いからでも、
- 自信がないからでも、
-性格の問題でもありません。
脳があなたを守るために、
「安全策として沈黙を選んでいる」
ただそれだけなのです。
だからこそ、責める必要はありません。
脳は変えられます。
安心は育てられます。
本音を言う力は訓練で必ず伸ばせます。
一歩ずつ“自分を守りながら本音を伝えられる脳”を作っていきましょう。

